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追暮篇(おいぐらしへん)
閑話『真相の話』・死
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人間との子どもなんて前例にない。
いくら魔界の書物を調べても分からなくて、お腹に宿っている命に恐怖を感じたこともある。
それでも、愛する人との子どもを育てたい気持ちが大きかった。
「...この子の名前、どうしようかしら」
産むときには少し痛みがあったけれど、やっぱり自分の子どもは可愛いと感じた。
親馬鹿なんて言われてしまうだろうと予想していたのに、ラッシュは泣き出すし蓬は嬉しそうに微笑んでいたし...反応が様々で気分が明るくなる。
「...木葉はどうかな?」
「木葉...そうね、優しい子に育ってくれそうな気がする」
その小さな命は、きゃっきゃと嬉しそうに声をあげる。
...ただ、予想外のことがおこっていた。
「この赤子、半分は人間の血液に違いないが...」
知り合いの医者は珍しい化学反応を見ているような表情で言った。
半分は人間、半分はヴァンパイアなのだと。
この子に私のような苦労はさせない、そう決めてふたりで人間界で育てる道を選んだ。
「木葉、いい子で待ってましょうね」
「あい!」
朝はそうして蓬が仕事で出ていく。
そして、帰ってきてからは私がバーと屋敷での仕事をこなす...そんな暮らしが3年ほど続いた。
その日は冷たい雨の日で、早く帰らなければと家路を急ぐ。
そのとき、どこからか光る弾が飛んできた。
「...っ」
「お、上玉じゃん!」
撃ってきたのは人間で、下劣な笑みを浮かべて近づいてくる。
「俺たちはヴァンパイアハンター。あんたみたいなのを殺すのが仕事だが...いい女だな」
「...触らないで」
紅く染まる槍を創り、それをそのまま突きつける。
最近治安が悪くなってきたとは聞いていたけれど、まさかこんな野蛮な人間がいるとは思っていなかった。
「女のくせに...!」
撃たれると間に合わない...全てを擲つ覚悟を決めて、そっと目を閉じる。
せめて最後に、家族に会いたかった。
破裂音が聞こえたのに、いつまでたっても痛みがやってこない。
目を開けると、そこには蓬が立っていた。
「よ、蓬...」
「ごめん。迎えが遅くなって...」
どたばたと足音が遠ざかっていくのを聞きながら、彼の頬に手を伸ばす。
「どうして私を庇ったの!?」
「...僕が、1番護りたいもの、だから」
流れる血液の量と赤く染まる左胸を見れば分かる。
無理だ、どうやっても助けられない。
「人間は、野蛮で勝手だ。でも...どうか、嫌いにならないで」
「お願い、死なないで...」
「ありがとう、ケイト。僕は君といられて...幸せだった」
救急車を呼んだはずなのにまだきてくれない。
蓬の最期の表情は、いつも私に向けられていた優しい笑顔だった。
──それからずっと、この事実を木葉に隠している。
どうしても会合に出席しなければならないときは屋敷のみんなに任せて、それから成長してからは本人の意思を尊重している...つもりだ。
けれどそれも、もう終わった。
「...あの子にどんな顔で話せばいいかしら」
ひんやりとした大きな石に向かって話しかけていると、冷たい風が頬に雫を打ちつける。
いつかの雨の日を思い出しながら、私はその場を後にした。
いくら魔界の書物を調べても分からなくて、お腹に宿っている命に恐怖を感じたこともある。
それでも、愛する人との子どもを育てたい気持ちが大きかった。
「...この子の名前、どうしようかしら」
産むときには少し痛みがあったけれど、やっぱり自分の子どもは可愛いと感じた。
親馬鹿なんて言われてしまうだろうと予想していたのに、ラッシュは泣き出すし蓬は嬉しそうに微笑んでいたし...反応が様々で気分が明るくなる。
「...木葉はどうかな?」
「木葉...そうね、優しい子に育ってくれそうな気がする」
その小さな命は、きゃっきゃと嬉しそうに声をあげる。
...ただ、予想外のことがおこっていた。
「この赤子、半分は人間の血液に違いないが...」
知り合いの医者は珍しい化学反応を見ているような表情で言った。
半分は人間、半分はヴァンパイアなのだと。
この子に私のような苦労はさせない、そう決めてふたりで人間界で育てる道を選んだ。
「木葉、いい子で待ってましょうね」
「あい!」
朝はそうして蓬が仕事で出ていく。
そして、帰ってきてからは私がバーと屋敷での仕事をこなす...そんな暮らしが3年ほど続いた。
その日は冷たい雨の日で、早く帰らなければと家路を急ぐ。
そのとき、どこからか光る弾が飛んできた。
「...っ」
「お、上玉じゃん!」
撃ってきたのは人間で、下劣な笑みを浮かべて近づいてくる。
「俺たちはヴァンパイアハンター。あんたみたいなのを殺すのが仕事だが...いい女だな」
「...触らないで」
紅く染まる槍を創り、それをそのまま突きつける。
最近治安が悪くなってきたとは聞いていたけれど、まさかこんな野蛮な人間がいるとは思っていなかった。
「女のくせに...!」
撃たれると間に合わない...全てを擲つ覚悟を決めて、そっと目を閉じる。
せめて最後に、家族に会いたかった。
破裂音が聞こえたのに、いつまでたっても痛みがやってこない。
目を開けると、そこには蓬が立っていた。
「よ、蓬...」
「ごめん。迎えが遅くなって...」
どたばたと足音が遠ざかっていくのを聞きながら、彼の頬に手を伸ばす。
「どうして私を庇ったの!?」
「...僕が、1番護りたいもの、だから」
流れる血液の量と赤く染まる左胸を見れば分かる。
無理だ、どうやっても助けられない。
「人間は、野蛮で勝手だ。でも...どうか、嫌いにならないで」
「お願い、死なないで...」
「ありがとう、ケイト。僕は君といられて...幸せだった」
救急車を呼んだはずなのにまだきてくれない。
蓬の最期の表情は、いつも私に向けられていた優しい笑顔だった。
──それからずっと、この事実を木葉に隠している。
どうしても会合に出席しなければならないときは屋敷のみんなに任せて、それから成長してからは本人の意思を尊重している...つもりだ。
けれどそれも、もう終わった。
「...あの子にどんな顔で話せばいいかしら」
ひんやりとした大きな石に向かって話しかけていると、冷たい風が頬に雫を打ちつける。
いつかの雨の日を思い出しながら、私はその場を後にした。
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