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遡暮篇(のぼりぐらしへん)
小さなこと
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自分でも吃驚するようなミスをおかしてしまった。
「ごめんね、まさか電話に出てしまうとは思わなくて...」
「やっぱり癖で押しちゃったんだね」
後でかけ直そうと思っていたのに、うっかり癖で押してしまったのだ。
渡瀬さんは笑って許してくれたけれど、他の人だったらどうなっていただろう。
「七海、冷たいのでよかった?」
「え、あ、うん!ありがとう」
ぼんやりとしていたせいで木葉に心配をかけてしまう。
不安げに瞳を揺らす彼の頬にそっと触れた。
「癖って怖いなって考えてただけだから大丈夫だよ」
「本当...?」
「本当」
怪我をしてからというもの、木葉には負担をかけてばかりだ。
落ちこんでいる彼を見ていられないと思うのに、できることがほとんどないのがもどかしい。
(何でもいいから元気が出ることがあればいいんだけど...)
「木葉、今日はお仕事なんじゃなかった?」
「そういえばそうだった...!」
慌てて服装を整える姿が微笑ましくて、つい笑ってしまった。
「夕飯の準備、私がやってもいい?」
「ごめん、今日はお願いするね。でも無理しないで」
私が頷くのを確認してから、木葉は一旦自室へと向かっていく。
スープの具材を切るだけでも、今の私にとってはかなりの重労働になってしまう。
本当はもっと手際よく進めたいのに、どうしてもそれができない。
「ごめん、遅くなっちゃったけど何か手伝えることある?」
「もうできたよ...。でも、いつもよりぐちゃぐちゃになってると思う。ごめんね」
「そんなに謝らなくても大丈夫だよ。七海が作ってくれるご飯はいつも美味しいから」
まさかそんなことを言ってもらえるとは思っていなかった私は、杖を持ったままただ呆然と立ち尽くす。
固まっていたせいかまた木葉に心配されてしまったけれど、大丈夫だと笑顔で答えた。
「木葉に褒めてもらえたのがうれしかっただけだから。...ありがとう」
「七海は沢山のことができてて、すごいなっていつも思ってる。言葉にするのは難しいけど、いつもありがとう」
だんだん恥ずかしくなってきたのか、木葉は下を向いてしまった。
ぼそぼそと何か話している頭を撫でながら、向かい側の席に座る。
両手をあわせて食べようとすると、そっとスプーンが差し出される。
「ほら、あーん」
木葉はきっと善意でやってくれているのだろうけれど、頬に熱が集まるのを感じる。
覚悟を決めて目を閉じて口を開けると、冷たい感触がした。
「...ほら、やっぱり美味しいよ」
「そ、それならよかった...」
今の彼の笑みは、私が照れているのを知ってか知らずか。
心が甘酸っぱいもので満たされて、なかなか食べ始めることができなかった。
「ごめんね、まさか電話に出てしまうとは思わなくて...」
「やっぱり癖で押しちゃったんだね」
後でかけ直そうと思っていたのに、うっかり癖で押してしまったのだ。
渡瀬さんは笑って許してくれたけれど、他の人だったらどうなっていただろう。
「七海、冷たいのでよかった?」
「え、あ、うん!ありがとう」
ぼんやりとしていたせいで木葉に心配をかけてしまう。
不安げに瞳を揺らす彼の頬にそっと触れた。
「癖って怖いなって考えてただけだから大丈夫だよ」
「本当...?」
「本当」
怪我をしてからというもの、木葉には負担をかけてばかりだ。
落ちこんでいる彼を見ていられないと思うのに、できることがほとんどないのがもどかしい。
(何でもいいから元気が出ることがあればいいんだけど...)
「木葉、今日はお仕事なんじゃなかった?」
「そういえばそうだった...!」
慌てて服装を整える姿が微笑ましくて、つい笑ってしまった。
「夕飯の準備、私がやってもいい?」
「ごめん、今日はお願いするね。でも無理しないで」
私が頷くのを確認してから、木葉は一旦自室へと向かっていく。
スープの具材を切るだけでも、今の私にとってはかなりの重労働になってしまう。
本当はもっと手際よく進めたいのに、どうしてもそれができない。
「ごめん、遅くなっちゃったけど何か手伝えることある?」
「もうできたよ...。でも、いつもよりぐちゃぐちゃになってると思う。ごめんね」
「そんなに謝らなくても大丈夫だよ。七海が作ってくれるご飯はいつも美味しいから」
まさかそんなことを言ってもらえるとは思っていなかった私は、杖を持ったままただ呆然と立ち尽くす。
固まっていたせいかまた木葉に心配されてしまったけれど、大丈夫だと笑顔で答えた。
「木葉に褒めてもらえたのがうれしかっただけだから。...ありがとう」
「七海は沢山のことができてて、すごいなっていつも思ってる。言葉にするのは難しいけど、いつもありがとう」
だんだん恥ずかしくなってきたのか、木葉は下を向いてしまった。
ぼそぼそと何か話している頭を撫でながら、向かい側の席に座る。
両手をあわせて食べようとすると、そっとスプーンが差し出される。
「ほら、あーん」
木葉はきっと善意でやってくれているのだろうけれど、頬に熱が集まるのを感じる。
覚悟を決めて目を閉じて口を開けると、冷たい感触がした。
「...ほら、やっぱり美味しいよ」
「そ、それならよかった...」
今の彼の笑みは、私が照れているのを知ってか知らずか。
心が甘酸っぱいもので満たされて、なかなか食べ始めることができなかった。
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