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与一様
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あれは一体どんな人なんだろう。
この男性に怒っているということだろうか。
『困ったときだけ私のところにくるとは…赦さんぞ…!』
その言葉と同時に、いきなり男性が倒れこんだ。
女性の方も震えながら、大樹の幹を見つめている。
「これ、きっと与一様が怒っているんだ」
「与一様、ですか?」
「このあたりに伝承として残っているんだけど、交通事故から身を護ってくれるんだって。
信じてもらえないと思うけど、実際に私も何度か不思議な助かり方をしているの」
そういえば、新聞記事にそんなことが書かれていたような気がする。
女性の話の続きを聞こうとしたが、残念なことにそこまで時間が残されていないらしい。
「…今から俺もおかしなことを言うんですけど、従ってもらえますか?」
「どういうこと?」
「もしその人が本当に木を傷つけたなら、その与一様という人は裏切られて相当怒っています。
…早く謝らないと、その人は本気で死にます」
呪いなんて比にならないほどの邪気にあてられながら、なんとか言葉を紡ぎ出す。
「なんで、無理矢理やらされた俺が…」
『無理矢理ならば何をやっても赦されるのか?…それならば、おまえの大事なものから壊してやろう』
「待て、話を聞いてくれ!」
ふたりはきょとんとしていたが、俺の言葉が与一様にははっきり届いたらしい。
『ほう?この私が視えるのか。只者ではなさそうだな…。
いいだろう、今日のところはおまえがこの場に留まるならそのふたりを逃してやる』
「…分かった、約束だ」
ふたりは震えながら立ちあがり、そのまま小走りでその場を去ってしまう。
はじめは殺気が強くて与一様が視えたのかと思ったが、彼からの指摘で気づく。
『左眼だけ翡翠色か、美味そうだな…』
「…残念なことに、俺は美味しくないと思うよ」
殴られたときに前髪が動いてしまっていたのか、或いは話している間に風で左眼が露わになってしまったのだろう。
今は心折れている場合でもないし、逃げられるのは慣れている。
『あの者たちが裏切ったというのに、何故無関係な人間を助けた?』
「怒るのは分かる。…でも、相手を消しちゃ駄目だ。その時点であなたは自分が護ってきたものを壊していることになる」
『この私の怒りが分かるはずないだろう…!』
「ぐ……」
なんとなく首が締まっていくのが分かる。
それでも、ここで諦めるわけにはいかない。
「俺は、あなたのことを知りたいと思ってここに来た。消された人たちの顔さえ、俺には分からない…。
だけど、それでも誰かが傷つくことをしたら、相手と同じくらい最低になってしまうんだ…!」
『私が、あいつらと同じだと…?困ったときだけ私に縋りついてくるあのような人間と同じだと?ふざけるのも大概にしろ…!』
これは本格的にまずい…そう直感した瞬間だった。
ぱっとポケットが光りだし、相手が怯むのを感じる。
『く…今日はここまでにしておいてやる』
そう話す声が聞こえたと同時に意識が闇に堕ちていくのを感じる。
なんとか引き止めたかったが、体が重くてもうどうしようもなかった。
──またあの人からもらったお守りに助けられたな…。
この男性に怒っているということだろうか。
『困ったときだけ私のところにくるとは…赦さんぞ…!』
その言葉と同時に、いきなり男性が倒れこんだ。
女性の方も震えながら、大樹の幹を見つめている。
「これ、きっと与一様が怒っているんだ」
「与一様、ですか?」
「このあたりに伝承として残っているんだけど、交通事故から身を護ってくれるんだって。
信じてもらえないと思うけど、実際に私も何度か不思議な助かり方をしているの」
そういえば、新聞記事にそんなことが書かれていたような気がする。
女性の話の続きを聞こうとしたが、残念なことにそこまで時間が残されていないらしい。
「…今から俺もおかしなことを言うんですけど、従ってもらえますか?」
「どういうこと?」
「もしその人が本当に木を傷つけたなら、その与一様という人は裏切られて相当怒っています。
…早く謝らないと、その人は本気で死にます」
呪いなんて比にならないほどの邪気にあてられながら、なんとか言葉を紡ぎ出す。
「なんで、無理矢理やらされた俺が…」
『無理矢理ならば何をやっても赦されるのか?…それならば、おまえの大事なものから壊してやろう』
「待て、話を聞いてくれ!」
ふたりはきょとんとしていたが、俺の言葉が与一様にははっきり届いたらしい。
『ほう?この私が視えるのか。只者ではなさそうだな…。
いいだろう、今日のところはおまえがこの場に留まるならそのふたりを逃してやる』
「…分かった、約束だ」
ふたりは震えながら立ちあがり、そのまま小走りでその場を去ってしまう。
はじめは殺気が強くて与一様が視えたのかと思ったが、彼からの指摘で気づく。
『左眼だけ翡翠色か、美味そうだな…』
「…残念なことに、俺は美味しくないと思うよ」
殴られたときに前髪が動いてしまっていたのか、或いは話している間に風で左眼が露わになってしまったのだろう。
今は心折れている場合でもないし、逃げられるのは慣れている。
『あの者たちが裏切ったというのに、何故無関係な人間を助けた?』
「怒るのは分かる。…でも、相手を消しちゃ駄目だ。その時点であなたは自分が護ってきたものを壊していることになる」
『この私の怒りが分かるはずないだろう…!』
「ぐ……」
なんとなく首が締まっていくのが分かる。
それでも、ここで諦めるわけにはいかない。
「俺は、あなたのことを知りたいと思ってここに来た。消された人たちの顔さえ、俺には分からない…。
だけど、それでも誰かが傷つくことをしたら、相手と同じくらい最低になってしまうんだ…!」
『私が、あいつらと同じだと…?困ったときだけ私に縋りついてくるあのような人間と同じだと?ふざけるのも大概にしろ…!』
これは本格的にまずい…そう直感した瞬間だった。
ぱっとポケットが光りだし、相手が怯むのを感じる。
『く…今日はここまでにしておいてやる』
そう話す声が聞こえたと同時に意識が闇に堕ちていくのを感じる。
なんとか引き止めたかったが、体が重くてもうどうしようもなかった。
──またあの人からもらったお守りに助けられたな…。
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