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旅立ち
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「さっきは失礼なことを言ってすみませんでした。だけどやっぱり、人間を消すのは駄目だと思います」
『…何故そう思う?』
「紅織さんのことを想っているなら、尚更駄目だと思います。
彼女があなたに逃げろと言ったのは、沢山の人たちを助けてきたあなたが大切だったからだと思うんです。その手を汚さないでほしいと思いました」
与一様は大きく息を吐き、そのままこちらに目を向けた。
『…焼けると痛むのは知っているか?』
「火傷ならしたことはありますが、あなたほど酷い目には遭っていません」
そうだ。あのときも御神木が焼けていた。
それなら彼の腕に巻かれている包帯の向こうには、傷が残っているのかもしれない。
『私は紅織の言葉の意味を理解していなかった、何故一緒に連れていってくれなかったのかと、ずっと考えていた。
…だが小僧、おまえの言葉で理解した。隠した人間たちは明日には家に帰れているはずだ。これに懲りれば、二度と悪戯はしないだろう』
「俺の言葉、ですか?」
『もし逆の立場なら、俺も同じことをしていただろう。紅織は最高の相手だったからな』
そう話すと、与一様は寒空に向かって動き出す。
『私の長話につきあってもらってすまなかった。そのうえ怪我までさせて…』
「これくらい平気です。どこかへ行くんですか?」
『もうこの地に留まることはできない。しばらく旅に出ることにする。
…今回の礼はいずれするとしよう』
「与一様」
『どうした?』
「…お元気で。それから、ありがとうございました」
『…おかしなことをいう奴だ』
与一様はそれだけ言って消えていってしまった。
彼の心の傷は深いけど、いつか少しでも癒えてくれればいいと思う。
『今回はどんな夢を視たんですか?』
「秘密」
『ええ…』
「早く帰ってお菓子食べよう」
偶然近くにあったカーブミラーで首筋を確認すると、そこには何かで絞められた痕がある。
寒空の下、小さく息を吐いた。
「これ、どうやって隠そうかな…」
これで彼による失踪者はもう出ないだろう。
だが、今回もまた人間の愚かさを痛感する結果になった。
大抵こんな結果になるが、やはりどこまでも人間は恐ろしい。
与一様がやっていたことは命懸けの人助けだったというのに、あの人たちは誰ひとりそのことに気づいていなかった。
『…何を考えているんですか?』
「ちょっとね。大したことじゃないよ」
『まったく、またそうやってはぐらかすんですから…』
「ごめん」
家に帰って鞄の中身を整理していると、あるものが転がり落ちてくる。
「…これは持っておかないといけないだろうね」
その鈴がついた髪紐はさっきの夢に出てきたものと全く同じもので、すぐ別のポケットに仕舞った。
『貰い物だらけになりそうですね』
「出会った証になるし、大切にしたいんだ」
瑠璃に少し呆れられながら、近くのポケットに入れたお守りを確認する。
まだ悴む手でそれを握りながら、小声でありがとうと呟いた。
『…何故そう思う?』
「紅織さんのことを想っているなら、尚更駄目だと思います。
彼女があなたに逃げろと言ったのは、沢山の人たちを助けてきたあなたが大切だったからだと思うんです。その手を汚さないでほしいと思いました」
与一様は大きく息を吐き、そのままこちらに目を向けた。
『…焼けると痛むのは知っているか?』
「火傷ならしたことはありますが、あなたほど酷い目には遭っていません」
そうだ。あのときも御神木が焼けていた。
それなら彼の腕に巻かれている包帯の向こうには、傷が残っているのかもしれない。
『私は紅織の言葉の意味を理解していなかった、何故一緒に連れていってくれなかったのかと、ずっと考えていた。
…だが小僧、おまえの言葉で理解した。隠した人間たちは明日には家に帰れているはずだ。これに懲りれば、二度と悪戯はしないだろう』
「俺の言葉、ですか?」
『もし逆の立場なら、俺も同じことをしていただろう。紅織は最高の相手だったからな』
そう話すと、与一様は寒空に向かって動き出す。
『私の長話につきあってもらってすまなかった。そのうえ怪我までさせて…』
「これくらい平気です。どこかへ行くんですか?」
『もうこの地に留まることはできない。しばらく旅に出ることにする。
…今回の礼はいずれするとしよう』
「与一様」
『どうした?』
「…お元気で。それから、ありがとうございました」
『…おかしなことをいう奴だ』
与一様はそれだけ言って消えていってしまった。
彼の心の傷は深いけど、いつか少しでも癒えてくれればいいと思う。
『今回はどんな夢を視たんですか?』
「秘密」
『ええ…』
「早く帰ってお菓子食べよう」
偶然近くにあったカーブミラーで首筋を確認すると、そこには何かで絞められた痕がある。
寒空の下、小さく息を吐いた。
「これ、どうやって隠そうかな…」
これで彼による失踪者はもう出ないだろう。
だが、今回もまた人間の愚かさを痛感する結果になった。
大抵こんな結果になるが、やはりどこまでも人間は恐ろしい。
与一様がやっていたことは命懸けの人助けだったというのに、あの人たちは誰ひとりそのことに気づいていなかった。
『…何を考えているんですか?』
「ちょっとね。大したことじゃないよ」
『まったく、またそうやってはぐらかすんですから…』
「ごめん」
家に帰って鞄の中身を整理していると、あるものが転がり落ちてくる。
「…これは持っておかないといけないだろうね」
その鈴がついた髪紐はさっきの夢に出てきたものと全く同じもので、すぐ別のポケットに仕舞った。
『貰い物だらけになりそうですね』
「出会った証になるし、大切にしたいんだ」
瑠璃に少し呆れられながら、近くのポケットに入れたお守りを確認する。
まだ悴む手でそれを握りながら、小声でありがとうと呟いた。
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