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新たな予感
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『八尋、そんなに左眼を押さえなくても今は私とふたりきりではありませんか』
「ごめん、なんだか恥ずかしくなってきて…」
結局、俺はまだ結論を先延ばしにしている。
本当は早く話して瑠璃に協力してもらえばあの男についてすぐに分かるとは思うが、そういうわけにもいかない。
「今日も仕事だから、もうここを出ないといけないかもしれない」
『…分かりました』
「いつもごめん」
先程起きたばかりでまだ半分寝惚けているが、瑠璃が不安そうにしているのはなんとなく理解した。
『あなたは本当にお人好しですね』
「褒め言葉として受け取っておくよ」
『しばらくはゆっくりできるでしょうか』
「…そうなるといいな、とは思ってる」
残念ながらそうはならないだろうということを、俺はもう既に予想している。
当然それはとても曖昧なものなので、まだ言うつもりはない。
ただ、どこからやってくるか分からない敵意というものに少し恐怖を感じている。
「…お疲れ様です」
「八尋君、怪我、だいぶよくなったみたいだね」
「いつもすみません」
「謝らないで。お礼を言わないといけないのは僕の方だしね」
中津先輩といつものように言葉を交わし、それからすぐ作業に取り掛かる。
在庫を調べたり、届いた新刊を並べたり…いつもよりお客さんが多かったのもあり、ずっと手を動かしていた。
「…そっちのダンボール、重いから」
「すみません…ありがとうございます」
顔をあげると、そこにいたのは山岸先輩だった。
「いつも木葉が迷惑をかけている気がするから、これくらいは僕がやる」
「いえ、お世話になりっぱなしなのは俺の方なんです」
「君は随分律儀だね」
彼が笑った顔というのをあまり見たことがなかったが、笑顔ひとつで雰囲気を変える人というのはこういう人物なのだろう。
なんだか周りの空気が一気に明るくなったような気がする。
「…僕の顔に何かついてる?」
「あ、いえ、すみません。見惚れてしまって…」
「まあ、体調が悪いわけじゃないならいいけど。夜道には気をつけて」
「分かりました…?」
先輩の先程の言い方が少し引っかかったものの、すぐにお客さんがやってきてまた慌ただしくなる。
そんなことを繰り返しているうちに、いつの間にか閉店時間を迎えていた。
「お疲れ様でした」
着替えてすぐ外に出ると、困り果てた様子の少女がひとり佇んでいる。
「…あの、もしかしてほしい本があったとか、予約されていたお客様ですか?」
「あ、えっと…はい、まあ。『怪異譚』という本を買いに来たんですけど、お店まで行くのに迷ってしまって…」
「引換券をいただけますか?調べてくるので少々お待ちください」
彼女の名前はたしかにあった。
ただ、その引換券の名前を見て違和感を覚える。
「…小林清香様、こちらでよろしいでしょうか?」
「それです!ありがとうございます」
一礼して去っていく彼女の背中を見送りながら、違和感の正体に気づく。
こんなに雨が降っているのに、彼女は傘もささずに歩いて帰っている。
…それなら何故、彼女は濡れていないんだ?
「ごめん、なんだか恥ずかしくなってきて…」
結局、俺はまだ結論を先延ばしにしている。
本当は早く話して瑠璃に協力してもらえばあの男についてすぐに分かるとは思うが、そういうわけにもいかない。
「今日も仕事だから、もうここを出ないといけないかもしれない」
『…分かりました』
「いつもごめん」
先程起きたばかりでまだ半分寝惚けているが、瑠璃が不安そうにしているのはなんとなく理解した。
『あなたは本当にお人好しですね』
「褒め言葉として受け取っておくよ」
『しばらくはゆっくりできるでしょうか』
「…そうなるといいな、とは思ってる」
残念ながらそうはならないだろうということを、俺はもう既に予想している。
当然それはとても曖昧なものなので、まだ言うつもりはない。
ただ、どこからやってくるか分からない敵意というものに少し恐怖を感じている。
「…お疲れ様です」
「八尋君、怪我、だいぶよくなったみたいだね」
「いつもすみません」
「謝らないで。お礼を言わないといけないのは僕の方だしね」
中津先輩といつものように言葉を交わし、それからすぐ作業に取り掛かる。
在庫を調べたり、届いた新刊を並べたり…いつもよりお客さんが多かったのもあり、ずっと手を動かしていた。
「…そっちのダンボール、重いから」
「すみません…ありがとうございます」
顔をあげると、そこにいたのは山岸先輩だった。
「いつも木葉が迷惑をかけている気がするから、これくらいは僕がやる」
「いえ、お世話になりっぱなしなのは俺の方なんです」
「君は随分律儀だね」
彼が笑った顔というのをあまり見たことがなかったが、笑顔ひとつで雰囲気を変える人というのはこういう人物なのだろう。
なんだか周りの空気が一気に明るくなったような気がする。
「…僕の顔に何かついてる?」
「あ、いえ、すみません。見惚れてしまって…」
「まあ、体調が悪いわけじゃないならいいけど。夜道には気をつけて」
「分かりました…?」
先輩の先程の言い方が少し引っかかったものの、すぐにお客さんがやってきてまた慌ただしくなる。
そんなことを繰り返しているうちに、いつの間にか閉店時間を迎えていた。
「お疲れ様でした」
着替えてすぐ外に出ると、困り果てた様子の少女がひとり佇んでいる。
「…あの、もしかしてほしい本があったとか、予約されていたお客様ですか?」
「あ、えっと…はい、まあ。『怪異譚』という本を買いに来たんですけど、お店まで行くのに迷ってしまって…」
「引換券をいただけますか?調べてくるので少々お待ちください」
彼女の名前はたしかにあった。
ただ、その引換券の名前を見て違和感を覚える。
「…小林清香様、こちらでよろしいでしょうか?」
「それです!ありがとうございます」
一礼して去っていく彼女の背中を見送りながら、違和感の正体に気づく。
こんなに雨が降っているのに、彼女は傘もささずに歩いて帰っている。
…それなら何故、彼女は濡れていないんだ?
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