カルム

黒蝶

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落ちる少女

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「…夜陽炎、いるか?」
『深夜3時は明日になるんでしょうか…』
瑠璃のため息を聞きながら、俺は廃ホテルに来ていた。
『八尋?こんな時間にどうしたの?』
「実は最近、このあたりで彷徨ってる人がいるみたいなんだけど…」
写真を見せると、夜陽炎はゆらゆら揺れた。
『あ、この子ならさっき本を持って歩いてるところを見たよ』
「そうか…。じゃあ、こっち方面に彼女を留める何かがあるってことになる。ありがとう、助かったよ」
『こんなことで助けになれるとは思えないけど…』
「充分だよ」
彼に向かって手を伸ばし、そのまま握手して建物を出る。
そのまま話していた方向に歩こうとしてその場で立ち止まった。
『どうかしましたか?』
「…彼女が亡くなった時間、もうすぐなんだ」
懐中時計を鞄に仕舞い、近くにあるはずの学校まで走る。
間に合うかどうかなんて分からない。
ただ、もし仮定があたっていたとしたら…嫌な予感ばかりが頭をよぎる。
それでも行くしかない。
「…駄目だった」
走っている近くで、ぐしゃりと何かが落ちる音がする。
それは遠くて見えなかったが、恐らく間違いないだろう。
『成程、繰り返しているんですか』
「ずっと辛かっただろうに…」
誰も、何も究明しようと動いてすらいない。
彼女にとって、それが1番傷ついた可能性がある。
…そう考えてしまう俺は、曲がっているだろうか。
『確認しなくてもいいんですか?』
「…遺体を見に行くような真似はしない」
瑠璃は無言で肩の上に乗り、そのまま休みはじめた。
気分転換にカフェにでも行こうと踵を返す。
明日同じ時間に来たら、あの少女と話ができるだろうか。
「…やっぱり」
あのあと、すぐに学校側の対応について調べてみた。
もし彼女が必死で何かを訴えようとしていたなら、怨みが積もっていても不思議ではない。
自分たちは無関係だと繰り返される言葉にうんざりした。
『すみません、眠ってしまって』
「構わないよ。いつも俺がつきあってもらってばかりなんだし、これだけ動き回ると疲れるのは仕方ない」
今日も仕事なのに、夕方になってもひたすら新聞を調べ続けていた。
「…俺はそろそろ行くけど、瑠璃は休んでても、」
『ひとりで行く必要はないでしょう?私はいつものように待っていますから』
「分かった。ありがとう」
自分が何をしていたかさえ忘れてしまうほど仕事をし、記録と着替えもすませてそのまま外に出る。
するとそこには、昨日と同じ光景があった。
『すみません、お店に来るまでに迷ってしまって…。もう閉まっちゃいましたよね」
「い、いえ。大丈夫ですよ。何かお探しですか?」
『『怪異譚』という本なんですけど…」
本の名前まで同じで、昨日と同じ姿の少女が立っている。
「引換券はお持ちでしょうか?」
…俺は上手く接客できただろうか。
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