カルム

黒蝶

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繰り返す少女

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「…まさか本のタイトルまで同じだとは思わなかった」
なんとか接客を終え、瑠璃に事の一部を説明する。
話し終わったところで、彼女からは素朴な疑問が投げかけられた。
『先程の少女、自分が死んでいることを忘れているのでしょうか』
「それはないんじゃないかな」
勿論、多分としか言えないが。
『どうしてそう思うのですか?』
「もし本当に死んでいることに気づいてないなら、さっきあんなふうに緊張しないと思うんだ。
初対面の相手に感じる緊張と、何かを隠すときの緊張ってだいぶ違うと思うから…」
恐らく先程の少女は、俺が同じ店員だと気づいたので焦ったのだろう。
また同じ本を買うなんて怪しい、などと思われてしまっては終わりだ。
「…午前4時28分」
『それがどうかしたんですか?』
「彼女が飛び降りたとされる時間。今日、もう1度行ってみようと思う」
間に合わなければまたあんな光景を目にするのかと思うと、精神的にかなり辛い。
だが、彼女は考えられない程の苦痛を背負って死んだはずだ。
それに比べれば、俺が感じている痛みなんてほんの小さなものかもしれない。
少し休んで、午前4時頃自転車をはしらせる。
この時間帯に辿り着ければ間に合うはずだ。
『…八尋?』
「待ってくれ!」
少女らしき人影を見つけ、そのまま全速力で追いかける。
だが、どれだけペダルを漕いでも追いつけない。
なんとか追いつき腕を掴もうとしたが、一瞬でふり払われてしまった。
『今夜は無理です。その場所に立っていれば、あなたが巻きこまれます』
「でも、」
『あまり無茶をしないでください』
「…ごめん」
結局、この日は間に合わなかった。
彼女をまた死なせてしまったという事実と、何故袖を掴みきれなかったのかという後悔で頭がぐちゃぐちゃだ。
『あなたのいいところは、相手に直球で向き合う優しさです』
「瑠璃…」
『いつもどおりやってみればいいじゃないですか。1度失敗したからって、簡単に諦めませんよね?』
「そうだな。…明日こそ話をしてみせる」
好きな時間に現れられるわけではないのか、或いは同じ時間にすることで誰かに刻みつけたいのか…今は全て憶測でしかない。
だが、あながち外れている気もしなかった。
「…ごめん、今夜ちょっとつきあってくれ」
『眠れそうにありませんか?』
「目を閉じたら駄目そうなんだ」
嫌なことを思い出すと、それがなかなか頭なら離れてくれない。
いつもそんな状態に陥っては、精神的にまいってしまう。
なんとか彼女に今の状況から脱出してほしいが、手立てが見つからないのも事実だ。
同じような1日を繰り返しながら、彼女は何を思っているんだろう。
…結局、眠れたのは30分ほどだった。
『大丈夫ですか?』
「ああ、なんとか。今日は少し作戦を変えてみるよ」
繰り返してしまうなら、その前に止めてしまえばいい。
深夜、閉店時間にその少女は再び現れた。
『すみません、もう本屋さんは、」
「…突然申し訳ないんだけど、君の話を聞かせてくれないかな?
『怪異譚』を読みながらでいいから、どうして君が繰り返しているのか聞かせてほしいんだ」
そう話すと、彼女はゆっくり頷く。
止めることはできなくても、なんとか話だけは聞かせてもらえそうだ。
その事実にひどく安堵した。
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