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孤独感
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『こっちも開きそうにありません』
「そうか…。この洋館全体がさっきの人の領域みたいなものだろうし、やっぱり出るのは難しいのかもしれないな」
部屋の扉は開くものの、一旦のぼったはずの階段すら見つからない。
それにしても、どうしてあの人はあんなふうに襲ってきたんだろう。
ただ襲うだけが目的ならお茶なんて淹れなくてよかったはずだ。
にも関わらず、わざわざお茶を用意してくれた。
「瑠璃、ちょっと待っててほしい」
『まさかひとりで、』
「違う。スクラップの中にこういう洋館が出てきた事件がないか調べたいんだ」
もしそれを見つけられたら、ここから出る為の手がかりになるかもしれない。
ただ、1度探し出すと無防備になるので周りに警戒していてほしいと思ったのだ。
何頁か読んだところで、ヒントになりそうな記述を見つけた。
【ひとりの女性の遺体発見。孤独死か】
「…彼女は寂しかったのかもしれない」
『寂しい?何故そう思うのですか?』
「ただの勘。こんな広い家にずっとひとりで住んでいたんだとしたら、きっと寂しさがつもっていくだろうなって…。
それに、死ぬ瞬間側に誰もいなかったなら尚更寂しさを感じたんじゃないかな」
『そういうものですか』
「俺みたいに独りがいいって他の人間たちと距離を置く人間ばかりじゃないから…きっと寂しかったんだと思う」
大半の人間は孤独というものに耐性がない。
独りが好きでそうしたい人といつの間にか独りになっていた人とでは意味が変わってくる。
『…あら、私のことを知っているの?』
いつの間に背後に接近していたんだろう。
「あなたは、この洋館の主ですか?」
『そうよ。ここは私のもの。だからあなたも、私のものになって?』
「それはできません。俺はどうしても外へ出ないといけないんです」
『私が独りにしないから、それでいいじゃない!』
「…!」
いきなり肩を強く掴まれて、身動きがとれなくなる。
彼女の目からは涙が零れ落ち、ぽたぽたと床を濡らす。
「これ、使ってください」
なんとかポケットまで手を伸ばし、今日まだ1度も使っていないハンカチを渡す。
腕や肩が痛んだが、彼女が負った痛みはこんなものじゃない。
『私もう、人間じゃないのよ?あなた、殺されるかもしれないのに怖くないの?』
「怖くないといえば嘘になります。だけど、積極的に生きていたいわけでもありません。
…強いて言うなら、俺はよく家に来る小鳥と一緒にいられれば充分ですから」
俺には、誰かが待っている場所なんてもう作れない。
話を続けようとした瞬間、肩を握る手に力がくわわった。
『嘘だ!ひとりが平気な人間なんているはずない!』
「あ…」
その瞬間体がぐらりと傾き、開いていた窓から急速落下する。
瑠璃がこちらに向かって飛んできていたが、背中に鈍い衝撃を感じた直後に目の前が真っ暗になった。
「そうか…。この洋館全体がさっきの人の領域みたいなものだろうし、やっぱり出るのは難しいのかもしれないな」
部屋の扉は開くものの、一旦のぼったはずの階段すら見つからない。
それにしても、どうしてあの人はあんなふうに襲ってきたんだろう。
ただ襲うだけが目的ならお茶なんて淹れなくてよかったはずだ。
にも関わらず、わざわざお茶を用意してくれた。
「瑠璃、ちょっと待っててほしい」
『まさかひとりで、』
「違う。スクラップの中にこういう洋館が出てきた事件がないか調べたいんだ」
もしそれを見つけられたら、ここから出る為の手がかりになるかもしれない。
ただ、1度探し出すと無防備になるので周りに警戒していてほしいと思ったのだ。
何頁か読んだところで、ヒントになりそうな記述を見つけた。
【ひとりの女性の遺体発見。孤独死か】
「…彼女は寂しかったのかもしれない」
『寂しい?何故そう思うのですか?』
「ただの勘。こんな広い家にずっとひとりで住んでいたんだとしたら、きっと寂しさがつもっていくだろうなって…。
それに、死ぬ瞬間側に誰もいなかったなら尚更寂しさを感じたんじゃないかな」
『そういうものですか』
「俺みたいに独りがいいって他の人間たちと距離を置く人間ばかりじゃないから…きっと寂しかったんだと思う」
大半の人間は孤独というものに耐性がない。
独りが好きでそうしたい人といつの間にか独りになっていた人とでは意味が変わってくる。
『…あら、私のことを知っているの?』
いつの間に背後に接近していたんだろう。
「あなたは、この洋館の主ですか?」
『そうよ。ここは私のもの。だからあなたも、私のものになって?』
「それはできません。俺はどうしても外へ出ないといけないんです」
『私が独りにしないから、それでいいじゃない!』
「…!」
いきなり肩を強く掴まれて、身動きがとれなくなる。
彼女の目からは涙が零れ落ち、ぽたぽたと床を濡らす。
「これ、使ってください」
なんとかポケットまで手を伸ばし、今日まだ1度も使っていないハンカチを渡す。
腕や肩が痛んだが、彼女が負った痛みはこんなものじゃない。
『私もう、人間じゃないのよ?あなた、殺されるかもしれないのに怖くないの?』
「怖くないといえば嘘になります。だけど、積極的に生きていたいわけでもありません。
…強いて言うなら、俺はよく家に来る小鳥と一緒にいられれば充分ですから」
俺には、誰かが待っている場所なんてもう作れない。
話を続けようとした瞬間、肩を握る手に力がくわわった。
『嘘だ!ひとりが平気な人間なんているはずない!』
「あ…」
その瞬間体がぐらりと傾き、開いていた窓から急速落下する。
瑠璃がこちらに向かって飛んできていたが、背中に鈍い衝撃を感じた直後に目の前が真っ暗になった。
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