カルム

黒蝶

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「それじゃあまた」
『…うん。また』
栞奈には笑顔が増えたし、小鞠も遊んでもらってとても楽しそうだった。
廃墟に背を向け、そのまま歩き出す。
「カミキリさんの鋏、少し綺麗になってた気がする」
『彼女が自分で研いだのか、噂が上手く広まっているのか…恐らく後者ですね』
「そうか」
呑気なことを話しながら、実は頭の中は呪いの人形のことでいっぱいだ。
あの男の目的が見えないうえに、もうひとりは一緒にいることになる。
だとすれば、どうしてあの男は無事でいられるんだろう。
『八尋、通り過ぎますよ』
「ああ…ごめん」
瑠璃が話しかけてくれなかったら、自分の家も越えてどこか別の場所へ行ってしまうところだった。
ぼんやりしてしまうのは、あの男のことが頭をちらつくからだろうか。
『あの男はまた現れるでしょうね』
「多分。だけど、あの男がもうひとりを殺さない理由が気になる」
『殺すって、そんな物騒なことをするんですか?』
「…少なくとも、俺は1番大事な人を殺された」
あの人は悪いことなんて何もしていなかったのに、それでも殺されてしまった。
最期まで笑って僕を逃して、お守りまでくれて…そんな相手を助けられなかったのが辛い。
『感傷に浸るのは後にしましょう。今は解決策を考えないと』
「そうだな。ごめん」
気を引き締めなければすぐやられてしまう。
俺にはお守りがないと何もできないわけで、周りに頼りっぱなしの戦術になる。
申し訳ないけど、今はまだ策ひとつ思い浮かばない。
「小鞠、遊んでもらってよかったね」
『楽しかった』
「それならよかった」
小さな体をせいいっぱい動かしてアピールする小鞠はやっぱり可愛らしい。
「取り敢えず今日はもう休もうかな」
『そうしてください…と、言いたいところだったのですが、そういうわけにもいかないようです』
ふと顔をあげると、紫煙がたちこめているのが目に入る。
「…行かないと」
立ちあがろうとしたところで小鞠に袖を引っ張られる。
『行く』
「分かった。それじゃあみんなで行こう」
ひとりにはしておけないし、ひとりにしたくない。
『またあの男もいるのでしょうか?』
「その可能性が高いと思う。それでも俺は逃げたくない」
『吸いこまれてしまわないように気をつけてくださいね』
「うん。ありがとう」
俺は無力だ。できることはかなり少ない。
それでも、誰かに手を伸ばせる可能性があるというならやってやる。
煙の発生地へ辿り着いたとき、以前は気づかなかったものがぼんやりと佇んでいた。
「これ、香炉…?」
『八尋、それを壊してください』
「壊す?これでいいのか?」
お守りをかざすと、ぱっと光って砕け散る。
あまりの衝撃に後退ってしまったものの、なんとか耐えきった。
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