未熟な蕾ですが

黒蝶

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問1

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「桜良ちゃん、大丈夫そう?」
「今は落ち着いてるよ。…まさかあんなあっさりやられると思ってなかったから、また心配かけちゃったな」
ひな君は新品の制服に袖を通して、しゅんとした様子で椅子に座った。
「猫さんとも会ったんでしょ?」
「しこたま怒られた。心配させてるんじゃないって。そうなんだけど、分かってはいるんだけどな…」
ひな君がこんなに焦っているのは初めてかもしれない。
先生と詩乃ちゃんがいないなか事件を解決するのはやっぱり大変だ。
僕は動き回れるけど、ふたりほど頭が回るわけでも強いわけでもない。
「ごめんね、ひな君」
「なんで謝るんだ?」
「僕が弱いから、ひな君にばっかり負担がかかってる」
もっと上手に力を使いこなせたらいいのに…なんて思っていたら、頭をぽんぽんされた。
「いきなり何…」
「おまえがいなかったら俺もっと死んでた。あと、ひとりじゃどうにもできなかった。
俺もおまえも、護りたいものが多いからな…。ま、気楽にやってみようぜ」
ひな君は人の心にすって入ってきて、そのまま通り抜けていく。
不快に思うことは全然なくて、いつも助けてくれる。
「…ありがとう」
「俺らはふたりにはなれないけど、俺らにしかできないこともあるだろ?…例えば、この部屋の外の片づけとか」
もっと話していたいのに、また来たのか。
「仕方ないなあ…」
「俺が先に、」
「駄目。僕がやる」
これ以上桜良ちゃんを不安にさせたくない。
深呼吸をひとつして扉を開けた。
《かかってきなよ。君たちは俺が止めるから》
《グルアア!》
相手に言葉が通じないなら、いつもの霊力よりな力より呪いに近いこっちを使った方がいい。
《ミ、クイ》
《そうだろうね》
今の僕の姿は死んだときのものそのままだろうから、血だらけでぐちゃぐちゃしたみたいに見えるはずだ。
それでも、この負の力を上手く使いこなしてみせる。
「ちび、受け取れ!」
《これは…》
「お守り。こめたのは俺のしょぼい霊力だからあんま意味ないかもだけど」
《ありがとう》
これがあれば、強すぎる力に圧倒されて狂うこともない。
なんでかはっきりそう思えた。
《グルルル…》
《今の僕は限りなく穢れを溜めている。それを発散したらどうなるか…君で試してみるよ》
元々悪霊だった僕は怪異になりかけて、そこをみんなに救われた。
満月が近いと力が闇寄りになるから暴走しやすい。
少しずつできるようになってきたけど、感情が大きく揺さぶられると影響しやすいから気をつけていた。
《グオオン!》
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