峽(はざま)

黒蝶

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第3幕

慣れてきたこと★

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「御舟」
「おはようございます」
バイト先、店長が手招きをする。
「どうかしましたか?」
「佐藤は大丈夫そう?」
「...今日は行けそうだってはりきってましたから」
結局お昼前からカフェに足を運んで、二人でしっかりと仕事をこなしていた。
俺はこれから講義に行かなければならないが、今の千夜ならきっと大丈夫なはずだ。
「そっか。...まあ、変な男が寄りつかないように見張っててあげる」
「ありがとうございます」
後ろをふりかえると、千夜と目が合う。
「...それじゃあ、行ってくるな」
「うん。いってらっしゃい」
ぽんぽんと頭を撫でると、周りから黄色い歓声がとんできた。
「いいなあ、私も恋人ほしい!」
「あれだけいちゃいちゃされちゃあねえ...」
「先輩方。...からかってくるならまかないの量あからさまに減らしますよ」
俺はそのまま後ろを振り返らずに大学へと向かう。
...緩みそうになる頬を必死で引き締めて。
「御舟!」
「おう。おはよう」
「メールしてたみたいだけど、やっぱり彼女さんか?」
「...まあな」
大学での一件以来、友人にちょくちょく千夜について聞かれるようになっていた。
「料理とか一緒に作ったりする?」
「...まあ、大抵は」
「それじゃあ、休みにデートしたりも?」
「...ああ」
「じゃあさ、」
そこで友人の話を遮る。
だんだん恥ずかしさがこみあげてきて、俺はもう答えるどころではなくなってしまった。
「なんだよ、もうちょい教えてくれてもいいだろ?」
「断る」
(あいつのことは俺だけが知っていればいい)
まさか自分にこんな感情があったとは思っていなかった。
執着、独占欲...そういったものはないと思っていたのに。
「なんだよ...まあ今度おまえのバイト先に顔出させてもらうけど」
「どういうことだ?」
「どんな料理があるか見てみたいんだよ。あと、おまえが働いてるところ」
「くるな、絶対にくるなよ」
「...それってふり?」
俺は聞かなかったことにして受け流す。
「ごめんって、からかいすぎたって...」
「...これ」
友人にケーキの無料試食券を押しつけ、顔は背けたままぼそりと言った。
「そんなに食べにきたいならくればいい。そのときは店員として歓迎する」
「御舟、やっぱ優しい...!ありがとな!」
「...じゃあ俺、そろそろだから」
今までとは違った過ごし方。
千夜の側にいたくて、できるだけ店に顔を出すようにして...どこにいてもひやかされて。
だが、そんな毎日を心地よいと感じてきている自分がいる。
(俺も少し変わったのかもな)
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