峽(はざま)

黒蝶

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第3幕

幸福模様の雨上がり☆

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「佐藤、準備を...って、二人ともびしょ濡れじゃない!いつもの更衣室にタオルあるから取り敢えずそれ使って...!」
「ありがとうございます」
私は真昼に手をひかれて、導かれるままに一番奥の普段は誰も使っていない更衣室に入っていく。
「ちょっとそこ座ってろ」
「...うん」
真昼はなれた手つきでタオルを出し、私の髪を優しく拭いてくれる。
「自分でやるから大丈夫...」
「いいからやらせろ」
わしゃわしゃとタオルを揺らす真昼に、私は聞いてみた。
「真昼」
「ん?」
「どうしてタオルの場所知ってたの?」
「ああ、それは...」
少しばつが悪そうにしながらも、ぼそっと呟いた声を聞き逃さなかった。
「びしょ濡れになったことがあるから」
「傘、持ってなかったの?」
「ああ、雨が降ってたわけじゃなくて...反対側からきてた自転車を避けたら、自動車に水溜まりの泥水をおもいっきりかけられた」
一瞬どういうことか分からなくて止まってしまったけれど、なんとなく理解した。
「真昼の優しさからだね」
「別に、普通に避けただけだし。...ただまあ、運がなかったというか、なんというか。そのときも店長がタオルかしてくれて、それで場所覚えてた」
「そうなんだ...」
どうしてか、少しだけほっとする。
...その答えはなんとなく分かっていたけれど、そっと胸にしまっておくことにした。
「ほら、もっと拭いてやろうか?」
わしわしと拭かれた私はもうだいぶ乾いてきていて、寧ろ真昼の方が濡れていた。
「今度は私が真昼を拭く」
「え、あ、おい...」
真昼がやってくれたようにわしわしと拭いていると、くすぐったそうに笑っていた。
「なんか、ちょっと...っ」
「もっと拭いてあげる」
「ほんと、もう、限界...っ」
ぱし、と私の手首が掴まれる。
そしてそのまま、私の頭へともっていかれた。
「待って、私はもう...ふふ」
「...やっと笑ったな」
「え?」
「なんでもない。俺は自分でやるから、もう大丈夫だ」
「...そっか、残念。もっとやりたかった」
真昼は私の方を見て、はっとした表情を見せる。
「これ、今日一日着てろ」
「どうして...?」
「なんででも」
それ以上は話してくれなかったけれど、鏡にうつった自分の姿を見て気づいた。
「真昼」
「どうした?」
「...ありがとう」
「別に」
心が温かくなっていくような感じがする。
それもこれもきっと、真昼だけが使える魔法だ。
私の心に少しだけ光がさしたような気がして小窓から空を見あげると、いつの間にか晴れ渡っていた。
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