峽(はざま)

黒蝶

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第3幕

完全無意識★

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まさか先輩たちに、こんなにからかわれることになるとは思っていなかった。
「御舟、やるう!」
「...?何の話ですか?」
「そういうの、彼シャツみたいじゃん?」
「じゃんって...」
(ん?彼シャツ?)
「もしかして全然考えてなかった?もう...そういうところが御舟のいいところだよね」
色々な人に指摘されるうち、だんだん恥ずかしくなってきた。
「へ、変なこと言わないでください。...ただ、あのままだと千夜が困るなって思っただけなので」
「本当に仲良しなんだから...!羨ましいわ」
「そういうのやめてください。...まかないの量本当に減らしますよ」
「それだけは勘弁...!」
ぱらぱらと持ち場に散っていくのを見送っていると、千夜が駆け寄ってきた。
「どうかしたのか?」
「そういうわけじゃないけど...少しだけでいいから、一緒にいたかったの」
本当は今すぐ抱きしめたいと思うのを堪えて、そっと背中を押す。
「ほら、もう少しだから。...後でいっぱい構ってやる」
「...!」
そっと耳許で囁くと、どうしてか顔を真っ赤にしながら持ち場に戻っていく。
「あ...」
「御舟?何かあったのか」
「い、いえ、なんでもありません」
心がぐらつきそうになるのを抑えながら、調理場へとひっこむ。
(まずい、全然意識せずに言ってしまった)
いつからあんな言葉が自分のなかから出てくるようになったのだろうか。
いくら考えても、答えは出なかった。
「みんなお疲れ!」
そんな店長の声とともにみんなが帰っていくなか、俺は一人厨房にいた。
今日は片づけ担当で、設備点検が必要だったからだ。
(大丈夫そうだな)
ふりかえると、テーブル席で千夜が何かをやっているのが見える。
「何してるんだ?」
「えっと...紙飛行機折ってる」
「紙飛行機?」
何故急に紙飛行機なのか、俺には分からなかった。
ただ一つ分かったのは、こいつを一人で待たせるのは申し訳ないということだ。
「もうすぐ終わるから待ってろ」
「...私も手伝う」
「いや、けど今日あのあと開店準備の手伝いもちゃんとやってただろ?無理させるわけにはいかない」
「物足りないから、何かやらせて?」
結局千夜に根負けして、二人で床掃除をすることになった。
「わっ...」
「危ない!」
片手で千夜を支えることには成功したが、バケツの水をひっくりかえしてしまった。
「ごめんなさい...」
しゅんとする千夜の頭をそっと撫でる。
「これくらい大丈夫。...それより、おまえが怪我しなくて本当によかった」
背後から気まずそうな咳払いが一つ聞こえてくる。
「あ、すいません...!」
「まあ、ただいちゃいちゃしてた訳じゃなさそうだから別にいいんだけど...本当に仲いいね」
店長にそう指摘され、二人揃って顔を赤くした。
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