峽(はざま)

黒蝶

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第3幕

初めてのお泊まり★

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「真昼」
「ん?どうした?」
千夜は少しもじもじしながら、覚悟を決めたように告げた。
「私、真昼の家に行ってみたい」
それは唐突で、一瞬どう反応すればいいのか分からなくなる。
だが、ここで断れば確実に千夜を傷つけることになるだろう。
「...明日」
「?」
「明日にしてくれ。少し片づけたいし、いきなりこられるのは照れくさいから」
「...うん、分かった」
その声は弾んでいて、俺はにやけてしまいそうになったのを必死に堪える。
それにしても、こいつがそんなことを言うのは珍しかった。
「何かあったのか?」
「恋人についてのことをテレビで見て、そういえば真昼の家にちゃんと行ったことがないなって思って...」
言われてみればたしかにそうだ。
いつも俺が千夜に泊めてもらってばかりで、その逆は恐らく一度もない。
(恋人が家にくるってどんな感じなんだろうな...)
その日家の前でわかれた後、友人にメッセージを送る。
『どうすればいいのか分からない』と、ただそれだけ送る。
友人からの返答は少ししてからかえってきた。
『いつもどおり接してやれば、それだけでいいと思う』
「...本当にそれだけでいいのか?」
スマートフォンを見ながら一人呟く。
レポートを終わらせながら、本当は千夜が気になってしかたがない。
何をするのが正解なのかは分からない。
だが、きちんとできるだけのことをしてもてなしたいとは思う。
(明日が楽しみだな)
翌日の昼、千夜はいつもより少しおしゃれな服をきて、少しの荷物を持ってやってきた。
「お、お邪魔します...」
「本当に何もないけど、どうぞ」
取り敢えずお茶を淹れる。
千夜はほっこりとした様子だった。
...腕に巻かれている血が滲んだ包帯をのぞいては。
「真昼、あれって天体望遠鏡?」
「ん?ああ、あれは祖父母に買ってもらったやつだな。この家は元は祖父母の家だったから。...もういないけど」
千夜が申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんなさい...」
「素朴な疑問をぶつけただけなんだから、謝る必要なんかどこにもないだろ」
無造作に頭を撫でると、本当に嬉しそうな表情をする。
それが堪らなく愛しくて、千夜を抱きしめたくなるのを必死に耐えた。
(いきなり抱きつくとか、嫌だって思ってるかもしれないし...)
色々考えていると、千夜がどんどん距離を詰めてくる。
「千夜...?」
「真昼、お願いがあるの」
「何だ?」
千夜は頬を赤らめながら、こそっと小さく呟いた。
「いつもみたいに、抱きしめてほしい...我儘、かな?」
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