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第3幕
護りたいもの★*
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二人で手を繋いでいると、やはり千夜の様子がおかしいと感じる。
「真昼...?」
この少しだけ潤んだ瞳...俺の予想は間違っていないらしい。
「千夜、噛みたいなら噛め」
家に辿り着いた瞬間、俺は後ろから恋人を抱きしめた。
「昼からずっと我慢してるんだろ?遠慮しなくていいから、呑みたいなら俺を噛め」
「そんなことできない。できないよ...」
半泣きになっている千夜をなんとか説得する。
「おまえがそうやって我慢してる方が嫌だから」
「でも、」
「俺は平気だから、そこまで気遣わなくていい」
千夜の瞳は揺れていたが、やがて覚悟が決まったように俺の方をじっと見つめる。
「痛かったら、すぐ言って...?この前より、抑えは効きそうだから」
「...分かった」
俺はあがらせてもらってすぐのところにあったナイフを借りる。
「...っ、ほら、呑め」
(相変わらず慣れないな...)
不思議なことに、呑まれることにはそこそこ慣れてきている。
だが、はじめの段階にいつも少し恐怖がつきまとってしまうのも事実だ。
自分を傷つけるという行為には、どうしても抵抗しそうになる。
「...っ、はあ」
「いい、俺は大丈夫だから...」
千夜が気にしているのは分かっている。
だから、そんな背中をずっと抱きしめられるようになりたい。
「...今、どれくらい経った?」
「三十分。...いや、正確には三十五分か」
「ごめ、」
「これは俺が望んだことだ。謝るな」
そっと抱きしめて口づける。
今日は泊まっていくと話して、一旦いつも貸してもらっている部屋に入った。
「...代わってやれればいいのに」
そんな言葉は夜風に吸いこまれていく。
このあと二人で食事を済ませ、明日も早いからと横になり...気づけば空から朝陽が射しこんでいた。
「真昼、あの...」
「今日はデート行くんだもんな。ちゃんと覚えてるから心配するな」
「うん」
安心しきったような表情を浮かべる千夜に見送られながら、大学までの道を急ぐ。
(昨日千夜が言ってたことが本当なら...)
友人のことも、恋人のことも...どちらの世界も捨てるつもりはない。
「染、」
話しかけようとして...勢いをつけて走った。
「おい、おとこおんな。おまえまだここに...ぐっ!?」
「悪い、ぶつかった」
「御舟...」
「悪いことはしてないだろ?いいからほら、行くぞ」
友人の手をとってその場を後にする。
「あんなの、言われ慣れてて、」
「それでも傷つかないわけじゃないだろ?先生に怒られるより、おまえが一人で傷つくことの方が嫌だ」
「お節介なやつ。けど...ありがとな」
二人で遠回りしながら講義室にすべりこむ。
笑いあいながら、なんとか掴めた手を見てほっとした。
「真昼...?」
この少しだけ潤んだ瞳...俺の予想は間違っていないらしい。
「千夜、噛みたいなら噛め」
家に辿り着いた瞬間、俺は後ろから恋人を抱きしめた。
「昼からずっと我慢してるんだろ?遠慮しなくていいから、呑みたいなら俺を噛め」
「そんなことできない。できないよ...」
半泣きになっている千夜をなんとか説得する。
「おまえがそうやって我慢してる方が嫌だから」
「でも、」
「俺は平気だから、そこまで気遣わなくていい」
千夜の瞳は揺れていたが、やがて覚悟が決まったように俺の方をじっと見つめる。
「痛かったら、すぐ言って...?この前より、抑えは効きそうだから」
「...分かった」
俺はあがらせてもらってすぐのところにあったナイフを借りる。
「...っ、ほら、呑め」
(相変わらず慣れないな...)
不思議なことに、呑まれることにはそこそこ慣れてきている。
だが、はじめの段階にいつも少し恐怖がつきまとってしまうのも事実だ。
自分を傷つけるという行為には、どうしても抵抗しそうになる。
「...っ、はあ」
「いい、俺は大丈夫だから...」
千夜が気にしているのは分かっている。
だから、そんな背中をずっと抱きしめられるようになりたい。
「...今、どれくらい経った?」
「三十分。...いや、正確には三十五分か」
「ごめ、」
「これは俺が望んだことだ。謝るな」
そっと抱きしめて口づける。
今日は泊まっていくと話して、一旦いつも貸してもらっている部屋に入った。
「...代わってやれればいいのに」
そんな言葉は夜風に吸いこまれていく。
このあと二人で食事を済ませ、明日も早いからと横になり...気づけば空から朝陽が射しこんでいた。
「真昼、あの...」
「今日はデート行くんだもんな。ちゃんと覚えてるから心配するな」
「うん」
安心しきったような表情を浮かべる千夜に見送られながら、大学までの道を急ぐ。
(昨日千夜が言ってたことが本当なら...)
友人のことも、恋人のことも...どちらの世界も捨てるつもりはない。
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「おい、おとこおんな。おまえまだここに...ぐっ!?」
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「悪いことはしてないだろ?いいからほら、行くぞ」
友人の手をとってその場を後にする。
「あんなの、言われ慣れてて、」
「それでも傷つかないわけじゃないだろ?先生に怒られるより、おまえが一人で傷つくことの方が嫌だ」
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笑いあいながら、なんとか掴めた手を見てほっとした。
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