峽(はざま)

黒蝶

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第3幕

綻ぶ表情★

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講義がなくなった俺は、店への道を急ぐ。
「少し早めですが、入ってもいいですか?」
「御舟...それじゃあお願いするよ」
着替えて、まずは店長が言っていた部屋に向かう。
「千夜、そろそろ休憩終わり...」
そこには、笑顔の千夜と染谷がいた。
「御舟?講義は、」
「...またなくなった。先生の体調がよくないらしくて」
「それじゃあ、真昼もこれからお仕事?」
「ああ。今日は厨房だけどな。...休憩は終わり」
千夜の手をひこうとすると、戸惑うように視線が泳いでいる。
「俺ならもう大丈夫だから。...時間とらせちゃってごめんな」
「いえ、話せてよかったです」
何があったのかはっきりとは分からないが、あまりつっこまない方がいいような気がする。
(俺相手には話しづらいこともあるだろうし...)
「...あのね、染さん、大学で酷いことを言われたみたい」
もやもやしていると、千夜が話してくれた。
あれほどまでに染谷が落ちこんでいるのは初めて見たと、涙声だったのだと千夜は言う。
「教えてくれてありがとな。多分、僻んだ連中の仕業だとは思うけど...気をつけとく」
成績優秀な染谷は妬まれやすい。
だが、話し方やいつも着ている服等の格好を見て...何も知らない奴等はここぞとばかりに攻撃してくる。
(入ったばかりの頃を思い出すな)
「真昼?」
「悪い、なんでもない」
頭を撫でると、千夜はやはり柔らかい表情を見せる。
だが、今日はいつもと少し違うような気がした。
「千夜、おまえもしかして...」
「御舟!悪いけどちょっと頼む!」
呼ばれたら行かないわけにはいかない。
「...無理するなよ」
「うん」
千夜の戦いに行くような表情に少しだけ笑ってしまいながら、もう一度そっと頭を撫でる。
「何したらいいですか?」
「そっちのオーブンのやつを仕あげて...」
予想以上の混雑に、ひたすら動き回る。
そうこうしているうちに、いつの間にか陽はすっかり落ちていた。
「今日は夜も閉めるから、片づけに残れそうならよろしく」
「はい」
千夜にそっと近づくと、やはり様子がおかしいような気がした。
「千夜」
「真昼...あ、あのね、チョコレート...ありがとう」
ずっとそれを言う為にもじもじしていたのかと思うと、鼓動が高鳴るのを感じる。
「美味かった?」
「...とろとろだった」
やはり味は感じなかったようだが、気に入ってもらえたようで本当によかった。
(けど、あれが必要になるくらいの欲求に襲われたってことだよな...)
またこっそり入れておこうと思いながら、そうかと答えて一心不乱にテーブルを拭いた。
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