峽(はざま)

黒蝶

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第3幕

番外篇『大切な職場』★

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なんとか店長には隠しとおすことができた。
...と思っていたが、視界の隅にあるものを見つける。
「千夜、テーブル頼む」
千夜も気づいたのか、すぐにテーブルの方へ足を向ける。
(あとはこっちに注目を向けておけば大丈夫そうだな)
「店長、小麦粉きらしちゃうそうなんですけどまだありますか?」
「ああ、在庫ならたしか倉庫に...」
そんな話をしていると、千夜が仕舞い終わったのが見えた。
「ありがとうございます」
「それじゃあみんな、今日もよろしく」
「はい!」
先輩たちの気合いはすさまじいもので、厨房の熱気もいつもよりすごいような気がする。
「シェフ、その、」
「分かってる。...今日は店を三時に閉めると通達」
店長の誕生日、シェフとの予定だって当然あるはずだ。
「分かりました」
なんとか店長には分からないようにできたらしい。
そうこうしているうちに、三時をまわった。
「申し訳ありませんが、本日はこれにて閉店です」
「佐藤、一体何を言ってるんだ?もしかして疲れで調子が悪いのか?」
「...これは、命令なので」
千夜の言い訳に笑ってしまいそうになりながら、他のメンバーでクラッカーを鳴らす。
「店長、お誕生日おめでとうございます!」
「え、え...?」
困惑する店長をよそに、そのまま料理を運ぶ。
(少なめにしておいて正解だったな)
これが終わったら、きっとシェフがどこかへ連れていくはずだ。
「店長、みんなからプチパーティーのプレゼントです」
「嘘、こんな豪華なケーキまで...ありがとう」
みんなの中心にいる店長は少しだけ涙ぐんでいる。
これだけ喜んでもらえるなら、休憩時間も使って作った甲斐があったというものだ。
「頑張ってみてよかっただろ?」
「あんなふうに笑ってくれるなら、やってみてよかったのかもしれない...真昼はやっぱり魔法使いだね」
「あれができたのは、おまえのお陰でもあるから」
二人でそんな話をしていると、いつの間にか視線を集めてしまっていた。
「そこでいちゃいちゃしてないで、二人もこっちおいでよ!」
「別にそういう訳じゃ、」
「佐藤さん、どれがいいですか?」
「えっと...はしっこので」
ここは本当にいい場所で、俺はこれ以上の職場を知らない。
ただ知らないだけかもしれないが、一番素敵な場所だと俺は思っている。
「みんな、本当にありがとう」
「悪いけど戸締まりよろしく」
...料理も大切な人への愛の表現ももシェフには敵わないが、いつかもっと上手く作れるようになってみせよう。
そう思いながら、二人の背中を見送る。
「みんなで片づけちゃおう!もうひとふんばりだよ」
全員の声が響き渡り、俺は千夜の隣でこっそり頬を弛ませたのだった。
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