峽(はざま)

黒蝶

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終幕

プロローグ『見つめる先には』☆

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カーテンを開けた先にある日差しが眩しくて、目をぐっと閉じる。
「おはよう」
「...ん」
「随分眠そうだな」
昨夜から泊まっていた真昼は苦笑しながら、ふんわりと漂ういい香りと一緒に起こしにきてくれた。
(目覚まし、いつ止めたんだろう...)
今日は朝早くからの出勤で、真昼も講義が早くて...。
「ほら、早く食べないと冷める」
「...いただきます」
一口食べてはみたものの、やっぱり味はしない。
「どうだ?」
「...ふわふわの玉子、好き」
「そっか、次は必ず...」
真昼には私が考えていることはお見通しらしい。
「いいにおいで、ふわふわで...美味しくないはずがない。ごちそうさまでした」
「なら、いいんだけどな...」
真昼には笑っていてほしいから。
何か話そうとするけれど、なかなか言葉がうかんでこない。
(どうして上手く言えないんだろう)
「忘れ物はないか?」
「うん。...あ、少しだけ待って」
指に大切なものをはめて、ぱたぱたと玄関に向かう。
「...おまたせ」
「おう。...ん?それってこの前のやつ?」
「最近、御守りにしてる」
真昼の指に視線を向けると、そこには色違いのリングがはめられていた。
「真昼も?」
「...っ、いいから行くぞ」
ぶっきらぼうな言い方だったけけど、いつだって優しい。
(今日も手を繋いでくれるんだ...)
嬉しくなって、私もそっと握りかえした。
「おはようございます...」
「佐藤、もしかして寝不足?」
制服に袖を通してふらふら歩いていくと、店長さんがいつものように声をかけてくれる。
「ごめんなさい、朝はどうしても苦手で...」
「気にしないで。それより...」
店長さんは微笑みながら聞いてくる。
「その指輪、ペアリング?」
「え、どうして、」
「あれだけ大切そうにしてたら分かるよ。...佐藤も、御舟も」
「真昼も...」
その言葉に、つい反応してしまう。
(どうしよう、すごくすごく嬉しい)
「佐藤、最近更に表情豊かになったね」
「そうでしょうか?」
「私はいいと思うよ」
「あ、ありがとうございます...?」
それからテーブルクロスを掴もうとして...その手は宙で止める。
(指輪、汚れないようにしておかないと)
小さな巾着に仕舞って、胸ポケットの中に入れる。
テーブルを拭いている間に、先輩たちがやってくる。
吸血欲求も、今のところはきちんと抑えられている。
こうしてこの日も、楽しい一日がはじまろうとしていた。
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