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終幕
首の傷★
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「御舟、首かかない」
「あ、すいません...」
午後からの仕事中、俺は何度も首の傷を掻いてしまいそうになった。
...実際、何度か掻いてしまった。
(どうしても我慢できないんだよな...)
昔できたそれは、温度差があると痒くなってしまう。
「真昼、六番テーブルの...真昼?」
「...ああ、悪い。これだろ?」
千夜が心配そうにじっと見つめてくる。
「なんてないから心配するな」
嘘だ、本当はこの瞬間も痒くてたまらない。
千夜は料理を運んだ後、俺の方に歩み寄る。
「...嘘は駄目」
「なんでそう思う?」
「首に手を添えるのは、嘘をついてる証拠」
まさかそんな癖があるとは、自分でも分かっていなかった。
(それにしても、やっぱり千夜は人のことを見てるな...)
どうやら無自覚らしいのだが、俺が知っている中では一番人のことをよく見ているような気がする。
店長のことといい、染谷のことといい...かなり人のことを見ているのだ。
「はい、それじゃあみんな、お疲れ」
「お疲れ様でした!」
そうこうしているうちにバイトの時間はあっという間に過ぎ去り、空は茜色から藍色に変わっていた。
「御舟、ちょっと佐藤をかりるよ」
「それは俺じゃなくて千夜に言ってください。それじゃあ、待ってるから」
「...うん」
千夜が不安そうにしているあたり、何故呼ばれたのかは分からないらしい。
俺も心当たりがないので、正直どんな話をしているのか気になって仕方ない。
しばらく待っていると、シェフに声をかけられる。
「...心配か?」
「それはまあ...はい」
「そろそろ終わると思う」
その言葉どおり、千夜は急ぎ足で出てきた。
「お、おまたせ...」
「そんなに待ってないから気にするな」
二人並んで、いつもの夜道を歩く。
いつもは少しずつ話をするのに、どうしてか沈黙が続いている。
(何かあったのか?)
そのとき、どうしようもないほどの痒みに襲われる。
いけないと思いつつ、俺はまた掻いてしまった。
「っ、それ駄目」
更に掻きむしろうとした手を、空中で止められる。
「なんで駄目なんだ?」
「掻いたらよくないから止めてって、店長さんが...」
千夜は少し気まずそうに視線を逸らす。
「何を聞いたんだ?」
「...真昼には古傷があって、そこを掻く癖があるって。ばい菌が入っちゃうといけないから止めてって...ごめんなさい」
「別に聞かれるのが嫌な訳じゃない。今日も俺の家にこい。これについての話、ちゃんとしてやる」
そこまで暗い話でもないし、何より...このまましゅんとした表情で帰したくなかった。
もっと二人でいたいというのも本音だ。
(やっぱり独占欲が強いのかもな...)
俺は内心そんなことを思いながら苦笑した。
「あ、すいません...」
午後からの仕事中、俺は何度も首の傷を掻いてしまいそうになった。
...実際、何度か掻いてしまった。
(どうしても我慢できないんだよな...)
昔できたそれは、温度差があると痒くなってしまう。
「真昼、六番テーブルの...真昼?」
「...ああ、悪い。これだろ?」
千夜が心配そうにじっと見つめてくる。
「なんてないから心配するな」
嘘だ、本当はこの瞬間も痒くてたまらない。
千夜は料理を運んだ後、俺の方に歩み寄る。
「...嘘は駄目」
「なんでそう思う?」
「首に手を添えるのは、嘘をついてる証拠」
まさかそんな癖があるとは、自分でも分かっていなかった。
(それにしても、やっぱり千夜は人のことを見てるな...)
どうやら無自覚らしいのだが、俺が知っている中では一番人のことをよく見ているような気がする。
店長のことといい、染谷のことといい...かなり人のことを見ているのだ。
「はい、それじゃあみんな、お疲れ」
「お疲れ様でした!」
そうこうしているうちにバイトの時間はあっという間に過ぎ去り、空は茜色から藍色に変わっていた。
「御舟、ちょっと佐藤をかりるよ」
「それは俺じゃなくて千夜に言ってください。それじゃあ、待ってるから」
「...うん」
千夜が不安そうにしているあたり、何故呼ばれたのかは分からないらしい。
俺も心当たりがないので、正直どんな話をしているのか気になって仕方ない。
しばらく待っていると、シェフに声をかけられる。
「...心配か?」
「それはまあ...はい」
「そろそろ終わると思う」
その言葉どおり、千夜は急ぎ足で出てきた。
「お、おまたせ...」
「そんなに待ってないから気にするな」
二人並んで、いつもの夜道を歩く。
いつもは少しずつ話をするのに、どうしてか沈黙が続いている。
(何かあったのか?)
そのとき、どうしようもないほどの痒みに襲われる。
いけないと思いつつ、俺はまた掻いてしまった。
「っ、それ駄目」
更に掻きむしろうとした手を、空中で止められる。
「なんで駄目なんだ?」
「掻いたらよくないから止めてって、店長さんが...」
千夜は少し気まずそうに視線を逸らす。
「何を聞いたんだ?」
「...真昼には古傷があって、そこを掻く癖があるって。ばい菌が入っちゃうといけないから止めてって...ごめんなさい」
「別に聞かれるのが嫌な訳じゃない。今日も俺の家にこい。これについての話、ちゃんとしてやる」
そこまで暗い話でもないし、何より...このまましゅんとした表情で帰したくなかった。
もっと二人でいたいというのも本音だ。
(やっぱり独占欲が強いのかもな...)
俺は内心そんなことを思いながら苦笑した。
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