峽(はざま)

黒蝶

文字の大きさ
111 / 133
終幕

耐えきった先で☆

しおりを挟む
「どうした?」
「真昼はいつから鍛えてるの...?」
少し驚いた表情をして、真昼はくっと笑った。
「いつからだろうな...。というか、まさかそんなことを聞かれるとは思ってなかった」
「だって、その...初めて、だから」
「まあ、人に見せるようなものじゃないからな」
私の半袖パーカーが入らなかったらしく、いつの間にか敷かれていたレジャーシートの上に綺麗に畳んで置かれた。
「...それより、ちょっと泳がないか?」
「深いところは自信ない...」
「なら、これに乗っとけ」
そう言って差し出されたのは、少し大きめの浮き輪だった。
「こう?」
腰のあたりにつけようとすると、真昼はふっと笑った。
「そんなにぶかぶかなのに、それじゃ意味ないだろ」
「わっ、」
いきなり抱きあげられて、少しだけ声を出してしまった。
「...ほら、そこに掴まってろ」
「真昼はどうするの?」
「俺は浮き輪持って泳ぐからいいんだよ」
そう言って、真昼は私が乗った浮き輪を押すようにしながら泳いでいく。
「...やっぱり鍛えてるんだね」
「そういえば、さっきちゃんと理由を話さなかったな」
真剣な声で、真昼はただ一言だけ言った。
「鍛えてるってほどでもないけど...何故と言われたら大事なものを護る為の力を身につけたかったからとしか答えられない」
今は顔が見えないから分からないけれど、きっと哀しいような寂しいような表情をしていると思う。
(何があったんだろう)
何もなくて、なんとなくで決められるようなことじゃない。
けれど、私にはやっぱり踏みこむ勇気がなかった。
「...よし、そろそろ戻るか」
「う、うん」
まずい。いつもより喉の渇きを強く感じる。
(駄目、今日はまだ...まだ我慢する)
「...大丈夫か?」
「うん、平気」
「それじゃあ、着替えたらここに集合な」
「...?うん、分かった」
この後に、何か予定があるのだろうか。
私はできるだけ急いで着替えて、真昼の側に戻る。
「待った...?」
「全然。それより、ちょっと寝てろ」
「どうして?」
そのとき、激しい眠気に襲われる。
体が重くて何も考えられない。
(もう、駄目...)
倒れそうになった瞬間、真昼の体温を近くで感じる。
「大丈夫だから。ちゃんと連れて帰るからな」
だんだん体が重くなってきて、そのまま瞼を閉じる。
...意識を手放す前に聞いたのは、ここまで我慢させてごめんという言葉だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

処理中です...