峽(はざま)

黒蝶

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終幕

ハニー・キス★

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「千夜」
「...」
「千夜、起きろ」
「んん...」
千夜は布団にもぐりこんでしまう。
どうやって起こそうか考えていると、あるものが目にはいる。
「...やってみるか」
針をずらすとジリリリと大きな音をたて、千夜の耳許で鳴り響く。
「千夜」
「...」
(こいつ...)
仕方ない。
一向に起きる気配がないので、最終手段を使うことにした。
「んん...」
「起きるまで離さないぞ」
「真昼...?」
もぞもぞと動いているのが分かったものの、そのまま離さずに抱きしめる。
「真昼、そんなにされると苦しい...っ」
「ちゃんと目が覚めたみたいだな」
そのとき、突然唇に温かいものが触れた。
「...!」
「えっと、その...お、おはよう」
「お、おう...」
(今のって絶対キスだったよな...?)
千夜の反応を見ても、どちらなのかは分からなかった。
たまたま当たっただけだったのか、それとも...。
「真昼、きっと優しい味がするね」
「い、いきなり何を言い出すんだ...!やめろ、それ以上言われたら...照れるだけじゃ済まなくなる」
先程まで飴を食べていたからだということは分かっている。
だが、それでもいたたまれない気持ちになった。
「それより、何か食べられそうか?」
「そういえば、どうして私はここで寝てるの?」
「...食べながらちゃんと説明してやる」
千夜はこくりと頷いて、よろよろと立ちあがった。
...それから、少しずつ話をした。
浜辺で倒れたこと。
俺がおぶって帰ったこと。
...偶然染谷が車でとおりかかって、途中まで乗せていってくれたこと。
「ごめんなさい、私...」
「謝らなくていい」
「でも、私はすごく重いし...それに、染さんにだって迷惑を...っ?」
しょんぼりしながら言いかけていたところに、ハニードロップを放りこむ。
「助けあえるのが友人だから。...染谷にとっても、俺にとっても。けど、おまえのことになると余計冷静ではいられなくなる」
「...真昼」
「染谷だって、おまえがそうやって気にするのは嫌だって考えると思う」
千夜は真っ直ぐに俺を見つめ、少しだけ笑った。
「...真昼の味がする」
「どんなんだよ、それ」
「なんとなくだけど、そんな気がする。...ありがとう」
もしかすると、味が分からない千夜なりの優しさなのかもしれない。
(まあ、たしかに俺が食べてたやつと同じだけど...)
そう思うと、口のなかにハニードロップの甘い味がふわっと甦ったような気がした。
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