ノーヴォイス・ライフ

黒蝶

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第6話

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しばらく旧校舎で過ごした後、自転車で近くのショッピングモールに向かう。
人が少ないこの時間は私にとって天国だ。
「いらっしゃいませ」
店員さんの落ち着く声を聞きながら、好きなアーティストのCDを探す。
楽しそうに話す人たちを見ると少し苦しくなることもあるけれど、今までよりずっと気楽に過ごせているかもしれない。
目当ての商品を買った後、すぐに古書店へ向かう。
「八坂さん、こんばんは。今日も早いね」
声をかけてくれた店長さんに一礼して更衣室に入る。
エプロンをつけて、作業の準備に取り掛かった。
あれから何回かここのバイトにも来ているけれど、いい人ばかりで安心している。
必要以上に話さなくていいし、相手に気を遣わせてしまうこともないからだ。
「あ、今日は桜雪ちゃんも入ってるんだ」
夏霧さんとも挨拶を交わして、そのまま奥の本棚の整理をしていく。
そんななか、カウンターの方から戸惑っている声がした。
「えっと、困ったな…」
何かあったのかとちらちら見ていると、目が合った男の子がこちらに向かって走ってきた。
どうしたんだろうとしゃがんで視線を合わせたら、一生懸命指を動かしはじめる。
一瞬分からなかったけど、この子が何を求めているか理解した。
「……」
人前では食事以外で極力外さないようにしているマスクをずらし、人差し指を左右にふる。
男の子の表情はぱっと明るくなり、すらすらと指を動かしはじめた。
「『探しものはこれですか?』」
口パクでそう問いかけると、男の子は元気よく頷く。
左手の甲から垂直に右手をあげて、そのままレジへ走っていった。
「桜雪ちゃん、さっきの何?」
不思議そうにしている夏霧さんに書いて説明する。
「【多分、あの子は耳が聞こえていないんだと思います。だから手話で説明しようとしたけど伝わらなくて困っていたのかもしれないと思いました。
唇の動きを読もうにも難しかったのかなって…ちゃんと買いたい本を見つけられてよかったです】」
「え、桜雪ちゃん手話分かるの!?すごいね」
「【基本的なものと指文字しか分からないので、まだまだです】」
声が出なくなる前から手話に興味はあったから少しだけ知っている。
相手に伝わるか分からなくても、何も伝えないよりずっといいだろうから言葉を形にしたかった。
「それにしても、あんなに小さな子が買いに来るとは思わなかったな…」
丁度目の前にあった男の子の目当てのものを夏霧さんに見せた。
「あ、絶版になった絵本か。ここってそういうのも取り扱ってるからいいよね」
人と人を繋いでくれる本が多い…この場所を紹介してくれた先輩はそう言っていた。
それを実感しつつ、ずらしたマスクを元に戻す。
「桜雪ちゃん、いつもマスクしてるんだね」
「……【こうしていると落ち着くので】」
「そっか。…そうだ、そろそろ新しい本が入ってくるから整理するの手伝ってもらっていい?」
首を縦にふって少し後ろをついていく。
深く突っ込まないでいてくれることがただありがたかった。
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