ノーヴォイス・ライフ

黒蝶

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第12話✓

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「桜雪ちゃん、美味しい?」
静かに食べる姿を見てそう尋ねると、本当に美味しかったらしく首を大きく縦にふっていた。
ぶかぶかの俺の服を着た桜雪ちゃんはなんだか可愛らしくて、そんな姿を前に内心どきどきしてしまっている。
「……」
「あ、ちなみに俺のも美味しいよ」
メモに書こうか迷っている様子の彼女にそう声をかけると、また吃驚した顔をしていた。
考えていることが顔に出やすいことに気づいていないのか、俺のセンサーがたまたま感知しやすいからなのか…どのみち、桜雪ちゃんが考えていることをなんとなく理解できている。
「……」
「ごちそうさまでした」
ふたりでごみを片づけていると、桜雪ちゃんの動きが止まる。
「どうしたの?」
桜雪ちゃんは何かに気づいたらしく、テーブルに手を伸ばす。
そこにあったのは、先生たちから借りた手話の本だった。
「俺、本当に初歩的なのしか分からないんだ。指の動きを覚えるのが難しくて…」
「…【手話に興味があるんですか?】」
「そんなところかな。色々な人と話せると楽しいだろうし、たまには勉強してみるのも悪くないかなって。
…課題溜めすぎて大変なことになってたから、今はそっち優先でやってるんだけどね」
俺は勉強が飛び抜けてできる方じゃない。
ついていけないほどではないが、教科によっては赤点すれすれだ。
先生たちのおかげで単位がもらえるぎりぎりではある。
「【穂さんは文系ですか?】」
「一応そういうことになるのかな。国語が好きなんだけど、生物分野が苦手だし歴史もそんなに得意じゃない。桜雪ちゃんは?」
「【文系教科が壊滅的です】」
「そっか。俺たち真逆なんだね」
時計を見るともう10時をまわっていて、そろそろ帰さないとまずいことに気づく。
「上着は…これならいいか」
「…?」
「桜雪ちゃん、これ着て。送っていくから」
慌てた様子で両手をふってわてわてする彼女の姿に思わず笑ってしまった。
「……」
「ごめんごめん。可愛いなって思ったんだ。そんなに遠慮しなくていいから乗って」
バイクの後ろにぬくもりを感じながら、できるだけゆっくり走らせる。
近くの道までしか知らなくて少し戸惑ったものの、桜雪ちゃんが降りようとするのを阻止して強引に送らせてもらった。
「【ありがとうございました】」
「どういたしまして。…ねえ、桜雪ちゃん」
「…?」
「また今度誘ってもいい?」
断られるかもしれないと思ったが、桜雪ちゃんは俺の手を握って1回ノックする。
「よかった…。今日は誘ってもらえて嬉しかったよ。またバイト先か学校で、になるのかな」
暗くて表情までは見えないものの、見せてくれたスマホの画面には、またどこかでの文字が並んでいた。
「いつでも連絡してきてね」
遠慮されそうだからそれだけ言ってバイクにまたがる。
変にどきどきしながら帰路につくと、なんだかいつもより背中が寒く感じた。
「…どういう場所に誘ったら喜んでくれるんだろう」
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