ノーヴォイス・ライフ

黒蝶

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第42話*

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会計だから、人と関わらずにいられる。
子どもたちにも喜んでもらえたし、あとは運ばれてくる売上の計算をすれば仕事は終わりだ。
「すみません、これお願いします」
「……」
ただ頷くことしかできないのが申し訳なかったけど、相手はとても優しかった。
「ありがとうございます。それから、これ…余り物で申し訳ないんですけど飲んでください。お疲れ様です」
缶の紅茶をもらって一礼する。
わざわざ持ってきてくれるなんて本当にいい人だ。
「八坂さん、お疲れ様です。順調みたいだね」
真島先生が近くに来て声をかけてくれた。
書くのが間に合わないからとにかくお辞儀して挨拶する。
「もうひとりが戻ってくるまで手伝えることはあるかな?」
「…【今は大丈夫です。ありがとうございます】」
「そうですか。何かあれば声をかけてください。この近くにいますから」
先生はそう言って、受付の方へ行ってしまった。
早くお仕事を終わらせたら、穂さんと話す時間が作れるかもしれない。
そうすれば、今日買ったものを渡す時間も…なんて考えていると、うわっという声が聞こえた。
「え、なんであいついるの?」
「仮病子じゃん」
ひそひそと話す声の主にも、仮病子という言葉にも覚えがある。
ゆっくり視線をあげると、やっぱり私服の女子生徒ふたりが立っていた。
…たしか、停学になっていて退学間近だと聞いたけど、どうしてここにいるんだろう。
「相変わらず喋れないんじゃない?声が出ないなんて嘘でしょ」
「本当は話せるくせに…ねえ?」
けらけら嗤う声を無視してとにかく作業に没頭する。
持ってきていたヘッドホンをつけて、全部の声をシャットアウトした。


──音楽だけが、私を救ってくれる。
『うわ、変な声!』『キモすぎ、ウケる…!』
自分で言うのもおかしいだろうけど、小さい頃から高音域の声がよく出た。
歌うときだけ色々な音程で、周りの人たちとも楽しく歌っていた…と思う。
歌うのが好きだったから。
それがこの烏合学園昼間制に入って一変した。
『もう学校来なきゃいいのにね』『ほんとそれ』
毎日聞こえてくる汚い言葉と、執拗に繰り返される嫌がらせ。
そんな日々を過ごしていたら歌うことまで馬鹿にされて…それまでに溜まっていたものが爆発した。
『失声症ですね。ストレスが原因と考えられます』
私のことなんか興味もない家族でほっとした。
ひとり暮らしをしている部屋でただ泣いたのをよく覚えている。


相手が去ったのを確認してヘッドホンを外すと、室星先生がこちらに向かって走ってきた。
「おまえらふたり、ちょっと来い」
「なんで?」
「うちらもうここの生徒じゃないし」
「そういう問題じゃない。マナー違反者は取り締まる。それだけだ」
あの人たちが視界から消えても、言葉が突き刺さって消えてくれない。
机に突っ伏して何も見なくていいように目を閉じる。
カーディガンの袖がぐしゃぐしゃに濡れていった。
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