ノーヴォイス・ライフ

黒蝶

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逆境を壊す

第57話

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「まず、こちらで作るものを選んでください」
「分かりました。どれにしようか」
「…【穂さんが作りたいもの】」
「【俺はマグカップを作ってみたいんだ。もうひとつ選べるみたいだから、桜雪が選んで】」
俺ばかりが話していては気を遣わせてしまう気がして、なんとか手話で会話する。
ふたりで話してストラップとマグカップを作ってみることにした。
「それでは、まずマグカップから始めていきましょう」
丁寧に教えてもらえたおかげで、なんとか形にすることができた。
あとは焼き上がってからのお楽しみということで、ストラップを仕上げてから工房をゆっくり見て回る。
「楽しかったね」
笑顔で頷く桜雪を見ると、ここまで来てよかったと安心する。
最近疲れることが多かったからか、楽しそうにしているのを見ているだけで癒やされた。
「…【何か気になるもの、あった?】」
「【向こうに簪があったよ。ちょっと見てみようか】」
普段使わないかもしれないけど、ヘアアクセも沢山あった。
シンプルなピンなら使いやすいだろうか。
「これはどうかな?」
近くにあった桜色のピンを見せると、桜雪はすごく驚いていた。
「【うさぎさんも可愛いから、買っちゃおうか迷っていたんです。今からお会計してきます】」
「分かった。俺はこのあたりで待ってるよ」
…なんて言いつつ、何か贈りたくなって桜雪が見ていた手鏡を別のレジで会計する。
それから少しして完成したと声をかけられた。
「ありがとうございました」
できあがったものを確認して、ふたりで微笑みあう。
お揃いの白うさぎキーホルダーに、星空を散りばめたような柄になったマグカップ。
桜雪のマグカップは桜の花びらが舞っているもので、彼女らしいデザインだった。
「…名残惜しいけどそろそろ帰ろうか」
そう声をかけると、ゆっくり頷いて恥ずかしそうに手を握ってくれる。
そのままバス停まで走って、寒空を眺めながらいつも読んでいる本を開いた。
それと同時に、肩にこつんと桜雪の頭がのる。
疲れているのかぐっすり眠っていた。
「…ありがとう」
駅まではまだ時間があるし、このまま読みすすめてしまおう。
桜雪が勧めてくれた小説を少しずつ読み解きながら、本以外は何も見ないようにしていた。
「桜雪、起きて。もうすぐ着くよ」
「……」
「桜雪」
全然起きそうになくて戸惑ったけど、首に手があたった瞬間はっと目が開かれた。
「…!【ごめんなさい】」
「謝らないで。寝顔も可愛かったよ」
滅多に見られない無防備な姿を見られて嬉しかった。
…それだけ心を開いてくれている気がしたから。
「そうだ、帰る前にこれ…受け取ってくれる?」
包みを渡すと、桜雪は驚いた様子で受け取ってくれた。
すると、桜雪からラッピングされたものを渡される。
「【受け取ってくれる?】」
「【ありがとう。帰ってから開けるね】」
動きが固かったものの、桜雪にはしっかり伝わったらしい。
バス停から特に話すこともなく、分かれ道に辿り着いてしまった。
「今日はありがとう。またね」
桜雪はずっと俺に手をふってくれている。
とにかく楽しく過ごせた1日に感謝しながら、部屋に入っても夢見心地だった。
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