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逆境を壊す
第62話✓
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迂闊だった。黒川にだけは見つかりたくなかったのに。
「ごめんね桜雪」
彼女は首を横にふって、温かい飲み物を用意してくれる。
「八坂さん、もしかして彼氏?」
同じバイトの人に尋ねられた桜雪は、恥ずかしそうにしながら頷く。
「休憩早めに入っちゃっても大丈夫だからね!今日は人少ないし、バイトの人数多いから」
頭を下げる桜雪を見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
あれから俺は雪まみれになった服をはらいながら立ちあがり、なんとか帰ろうとしたものの彼女に止められたのだ。
手が震えている、このままだと風邪をひくからとタオルまで貸してくれた。
痺れて上手く力が入らない右手を隠しながら、親切な人たちのぬくもりが閉じこめられた紅茶を飲む。
「…ここが猫カフェだって知らなかったよ。いつも通りかかってたのに、不思議だね」
桜雪は何も聞かずにお菓子まで用意してくれた。
色々聞きたいと思っているはずなのに、彼女から言われたことはひとつだ。
【大丈夫じゃない人をそのまま帰すわけにはいかない】
どう話を切り出そうか迷っていると、1匹の猫がすり寄ってきた。
「え、俺?」
「【梅さんはここのベテランさんなんです。元気がない人を放っておけないけど、自分からすり寄っていくことは滅多にないのに…。
やっぱり、穂さんの優しさが伝わっているのかも】」
桜雪の言葉ひとつひとつが温かい。
心に沁みわたるのを感じながら、無意識のうちに彼女の手を握ってしまった。
「…ありがとう」
「【私はただ、穂さんに笑ってほしかっただけだから…特に何もしていません】」
照れくさそうに笑う桜雪のメモにはまた優しい言葉が並んでいて、胸にぐっとこみあげてくるものがあった。
「今はまだ心の整理がつかないから、夜話してもいい?」
「【おうちに行っても大丈夫ですか?】」
「ペット可だからこゆきが一緒でも大丈夫だけど…迷惑じゃない?」
「【今度は私が力になりたいんです。いつも穂さんに助けてもらっていたから…お願い】」
桜雪は俺の話を聞いてくれる気満々らしい。
他の人が相手なら、きっとこんな話はしなかっただろう。
だけど、真っ直ぐぶつかってくれる彼女の手を払い除けたくない。
もし、全部話して嫌われたら…その怖さはあるけど、もう隠しておけないことも分かっている。
「【梅さんをだっこしてあげて】」
柔らかい毛並みの猫と戯れながら、桜雪の仕事が終わるのを待つ。
何人が心無い言葉を投げかける客がいたものの、彼女は笑顔を崩さず仕事をこなしていた。
本当は辛いはずなのに、ずっと笑って周りを不安にさせないようにしている。
空が茜色に染まる頃、桜雪が更衣室に行ったのを見計らってバイトの人が教えてくれた。
「実はみんな、八坂さんの笑顔にほっこりさせてもらっているんです。本当にいい子ですよね」
「はい。俺もそう思います」
「前は殆ど笑わない子だったんですけど、今みたいに自然な笑顔が出るようになったのはきっと彼氏さんのおかげですね」
このお店にも優しさが溢れている。
そういう場所だから、猫たちも安心して過ごせるのかもしれない。
私服に着替えた桜雪が駆け寄ってきたのを見て、そっと手をさしだす。
「それじゃあ、行こうか」
「ごめんね桜雪」
彼女は首を横にふって、温かい飲み物を用意してくれる。
「八坂さん、もしかして彼氏?」
同じバイトの人に尋ねられた桜雪は、恥ずかしそうにしながら頷く。
「休憩早めに入っちゃっても大丈夫だからね!今日は人少ないし、バイトの人数多いから」
頭を下げる桜雪を見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
あれから俺は雪まみれになった服をはらいながら立ちあがり、なんとか帰ろうとしたものの彼女に止められたのだ。
手が震えている、このままだと風邪をひくからとタオルまで貸してくれた。
痺れて上手く力が入らない右手を隠しながら、親切な人たちのぬくもりが閉じこめられた紅茶を飲む。
「…ここが猫カフェだって知らなかったよ。いつも通りかかってたのに、不思議だね」
桜雪は何も聞かずにお菓子まで用意してくれた。
色々聞きたいと思っているはずなのに、彼女から言われたことはひとつだ。
【大丈夫じゃない人をそのまま帰すわけにはいかない】
どう話を切り出そうか迷っていると、1匹の猫がすり寄ってきた。
「え、俺?」
「【梅さんはここのベテランさんなんです。元気がない人を放っておけないけど、自分からすり寄っていくことは滅多にないのに…。
やっぱり、穂さんの優しさが伝わっているのかも】」
桜雪の言葉ひとつひとつが温かい。
心に沁みわたるのを感じながら、無意識のうちに彼女の手を握ってしまった。
「…ありがとう」
「【私はただ、穂さんに笑ってほしかっただけだから…特に何もしていません】」
照れくさそうに笑う桜雪のメモにはまた優しい言葉が並んでいて、胸にぐっとこみあげてくるものがあった。
「今はまだ心の整理がつかないから、夜話してもいい?」
「【おうちに行っても大丈夫ですか?】」
「ペット可だからこゆきが一緒でも大丈夫だけど…迷惑じゃない?」
「【今度は私が力になりたいんです。いつも穂さんに助けてもらっていたから…お願い】」
桜雪は俺の話を聞いてくれる気満々らしい。
他の人が相手なら、きっとこんな話はしなかっただろう。
だけど、真っ直ぐぶつかってくれる彼女の手を払い除けたくない。
もし、全部話して嫌われたら…その怖さはあるけど、もう隠しておけないことも分かっている。
「【梅さんをだっこしてあげて】」
柔らかい毛並みの猫と戯れながら、桜雪の仕事が終わるのを待つ。
何人が心無い言葉を投げかける客がいたものの、彼女は笑顔を崩さず仕事をこなしていた。
本当は辛いはずなのに、ずっと笑って周りを不安にさせないようにしている。
空が茜色に染まる頃、桜雪が更衣室に行ったのを見計らってバイトの人が教えてくれた。
「実はみんな、八坂さんの笑顔にほっこりさせてもらっているんです。本当にいい子ですよね」
「はい。俺もそう思います」
「前は殆ど笑わない子だったんですけど、今みたいに自然な笑顔が出るようになったのはきっと彼氏さんのおかげですね」
このお店にも優しさが溢れている。
そういう場所だから、猫たちも安心して過ごせるのかもしれない。
私服に着替えた桜雪が駆け寄ってきたのを見て、そっと手をさしだす。
「それじゃあ、行こうか」
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