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逆境を壊す
第69話
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今の状況でこの人が穂と話したら、間違いなく穂は追い詰められる。
手のしびれのことも知らないみたいだし、できればなんとか何も教えずにこの場から去りたい。
「…君、喋れないんだね」
その言葉に頷くと、周りでひそひそと話す声が聞こえる。
「ねえ、あれってクロじゃない?一緒にいるの誰?」
「喋れないとか言ってなかった?やば…」
どうしても嫌な言葉が耳に届いて、その場から逃げ出したくなる。
だから、最後につらつら文章を書いた紙と飲み物代だけを置いて店を出た。
「【彼と話がしたいなら、連絡がくるまで待った方がいいと思います。心配しなくても、今の彼はとても幸せそうです。とても元気です。
注目を集めてしまいそうなのでこれで失礼します】」
それなのに、相手はまだ引き下がってくれなかった。
今度は路地裏にひきこまれて、腕を強く引っ張られる。
握られた手首がじんじん痛むのを感じながら、ふっと顔をあげた。
「君が知らないことが色々あったんだ。何も知らない部外者があいつの幸せを決めないでくれ。
俺と一緒にステージに立った方がいいに決まっているんだ。連絡先を知っているなら教えてほしい」
この人は自分しか見えていない。
周りの人たちの苦しみなんて見ていなくて、自分の感情だけで動いている。
そう考えると、だんだん怖くなってきた。
「──おい」
いつもより低い声が響くと同時に優しく抱き寄せられる。
「霧!」
「…ごめんね。少しだけこのままでいてくれる?」
私が頷いたのを確認して、穂は黒川さんに向かって言葉を投げつけた。
「しつこい。うんざりだ。俺は今充分幸せで、ステージに立つことなんて考えていない。
事務所の人にも伝えて。俺は戻るつもりはないし、この先連絡してきても返信することはないって」
「なんでだよ…。圭の事故のことを気にしているからか?」
黒川さんはもうひとりのメンバーが事故で死んだと思っているんだ。
それなら多分、穂がこの人に近づきたくないのは…この人が真実を知らないようにするため。
全て憶測でしかないけれど、外れている気がしない。
「黒川はひとりでもやっていけるよ。イベントの成功、願ってる。だけどもうおまえと組む気はない。
今の幸せを手放さたくないんだ。それだけは分かって」
黒川さんは抜け殻のようになりながら、視界から消えていった。
「あいつは事務所の人や後輩たちがいるから大丈夫だよ。桜雪は平気?」
「…【どうしてここにいるって分かったの?】」
「さっきお店に行ったら、知らない人に声をかけられてたのを見たって聞いたから。
…ありがとう。俺が傷つかないように助けてくれたんでしょ?」
穂に抱きしめられてとても安心する。
手首はまだ痛むけれど、心はもう冷たくない。
「ひとまずそれ、冷やした方がいいね。俺も休まないとだし…」
指の感覚がないのか、右手をぐーぱーしている。
そんな穂と手を繋いで、近くのレストランの完全個室席に座った。
手のしびれのことも知らないみたいだし、できればなんとか何も教えずにこの場から去りたい。
「…君、喋れないんだね」
その言葉に頷くと、周りでひそひそと話す声が聞こえる。
「ねえ、あれってクロじゃない?一緒にいるの誰?」
「喋れないとか言ってなかった?やば…」
どうしても嫌な言葉が耳に届いて、その場から逃げ出したくなる。
だから、最後につらつら文章を書いた紙と飲み物代だけを置いて店を出た。
「【彼と話がしたいなら、連絡がくるまで待った方がいいと思います。心配しなくても、今の彼はとても幸せそうです。とても元気です。
注目を集めてしまいそうなのでこれで失礼します】」
それなのに、相手はまだ引き下がってくれなかった。
今度は路地裏にひきこまれて、腕を強く引っ張られる。
握られた手首がじんじん痛むのを感じながら、ふっと顔をあげた。
「君が知らないことが色々あったんだ。何も知らない部外者があいつの幸せを決めないでくれ。
俺と一緒にステージに立った方がいいに決まっているんだ。連絡先を知っているなら教えてほしい」
この人は自分しか見えていない。
周りの人たちの苦しみなんて見ていなくて、自分の感情だけで動いている。
そう考えると、だんだん怖くなってきた。
「──おい」
いつもより低い声が響くと同時に優しく抱き寄せられる。
「霧!」
「…ごめんね。少しだけこのままでいてくれる?」
私が頷いたのを確認して、穂は黒川さんに向かって言葉を投げつけた。
「しつこい。うんざりだ。俺は今充分幸せで、ステージに立つことなんて考えていない。
事務所の人にも伝えて。俺は戻るつもりはないし、この先連絡してきても返信することはないって」
「なんでだよ…。圭の事故のことを気にしているからか?」
黒川さんはもうひとりのメンバーが事故で死んだと思っているんだ。
それなら多分、穂がこの人に近づきたくないのは…この人が真実を知らないようにするため。
全て憶測でしかないけれど、外れている気がしない。
「黒川はひとりでもやっていけるよ。イベントの成功、願ってる。だけどもうおまえと組む気はない。
今の幸せを手放さたくないんだ。それだけは分かって」
黒川さんは抜け殻のようになりながら、視界から消えていった。
「あいつは事務所の人や後輩たちがいるから大丈夫だよ。桜雪は平気?」
「…【どうしてここにいるって分かったの?】」
「さっきお店に行ったら、知らない人に声をかけられてたのを見たって聞いたから。
…ありがとう。俺が傷つかないように助けてくれたんでしょ?」
穂に抱きしめられてとても安心する。
手首はまだ痛むけれど、心はもう冷たくない。
「ひとまずそれ、冷やした方がいいね。俺も休まないとだし…」
指の感覚がないのか、右手をぐーぱーしている。
そんな穂と手を繋いで、近くのレストランの完全個室席に座った。
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