ノーヴォイス・ライフ

黒蝶

文字の大きさ
73 / 74
逆境を壊す

エピローグ

しおりを挟む
『ありがとうございました!』
マイクから聞こえる声と歓声が漏れ出るホール…前を通っただけでにぎやかな雰囲気が伝わってくる。
「……歌えててよかった」
誰にも見つからないうちに、すぐその場から離れる。
梅が咲いて、もうすぐ桜が春を知らせてくれるかもしれない時期になった。
「…あーあ。どうしようかな」
手のしびれが酷くなり、近くを通ったバスに飛び乗る。
そのまま学校まで行くと、校門の前には真島先生が立っていた。
「…こんにちは」
「少し顔色が悪いようですね。一緒に来ていただけますか?」
「分かりました」
やっぱり先生には分かってしまうようで、旧校舎にあるいつもの教室に辿り着いた。
「…手、違和感があるのか?」
「今はちょっと…ホールの前を通っちゃって」
「それでか」
あれから黒川は同じホールで何度もイベントを開催している。
『探し人へ』というタイトルのソロアルバムが出るらしいけど、それ以上のことは知らない。
まだ迷惑メールに振り分けたものを読む勇気はないし、できればこれ以上関わりたくないと思っている。
「おさまったか?」
「うん。ありがとうりっ君。…ねえ、転勤になったりしないよね?」
「移動はしたくないって話は出してあるから大丈夫だ。…俺の授業、そんなに好きなのか?」
「受けていても苦にならない。寧ろずっと受けていたい」
「…そうか」
りっ君はふっと笑って俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でる。
「いきなりどうしたの?」
「俺はそろそろ行かないといけないからな。…授業まで時間あるし、ゆっくり話せばいい」
りっ君が開けた扉の先には、儚げな笑顔を向ける桜雪の姿があった。
「……」
「え、桜雪!?」
「それじゃあな、ふたりとも」
りっ君の背中はやっぱりかっこよくて、まだまだ追いつけそうにない。
「何かあったの?」
「【通信制の委員会のお手伝い】」
あれから桜雪は監査部に書記手伝いとして入り、校内清掃などの活動を積極的にやってくれている。
「助っ人までやるなんて、やっぱり俺の彼女はすごいな……」
俺たちには特に変わったことはない。
強いて言えば、こゆきとも出掛けられるようになったくらいだろう。
少しだけ以前のような一面の取り戻したらしく、お気に入りのおもちゃでよく遊んでいるらしい。
「【穂だってすごい。この前陽向先輩が教えてくれた】」
「陽向…。まあ、悪い奴じゃないけど、時々照れくさくなるから言わないでほしいな」
「【穂がいい人だから、周りの人たちも優しいんだね】」
「そこに桜雪も入ってるんだよ。…授業終わるまで待ってて。こゆきを迎えに行くなら俺も行くから」
桜雪が頷いたのを確認して、すぐに教室へ向かう。
俺も彼女も大きな変化があったわけじゃないけど、ふたりで前を向いて進めるのは幸せだ。
夜のチャイムとともに、今夜も平和な授業の時間が訪れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...