路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

文字の大きさ
63 / 220
Until the day when I get engaged.-The light which comes over darkness-

第28話

しおりを挟む
ー**ー
隣のベッドを見ると、メルがすやすやと眠っていた。
(起こすのは可哀想だな)
俺はベッドを飛び降り、朝食を作る。
最近気づいたのが、メルはリンゴが一番好きだということ。
その他はベーコンや卵、レタスを使った料理が好みのようだ。
ハンバーグもかなり気に入ってくれたようなのでまた作りたい。
「カムイ?」
「ああメル、おはよう。ご飯できてるよ」
ー*ー
「わあ...」
ベーコンにスクランブルエッグ、レタスとコーンのサラダ...それにほかほかの食パン。
(私が好きなものばかりです)
「ありがとうございます」
「二人で暮らしてるんだから当然でしょ?今日は近くの店まで出掛けてみようか」
私はあの人に会ってしまった一件以来、外に出るのが少しだけ怖くなっていた。
「大丈夫だよ、あの人はいないから。それにいたとしても、俺が絶対に守るから」
「カムイ...」
カムイと一緒なら、頑張れる気がする。
「行きます、今日は何を買うんですか?」
「メルはパンケーキって食べたことある?」
「パンケーキ...?」
(なんでしょう?パンとケーキが合体したようなもの、ということでしょうか?)
「じゃあ今日はそれを作ろう」
「いいんですか?」
「うん。じゃあ、お昼くらいに出掛けようか」
「はい!」
二人で出掛けられるのだと思うと、私はとてもわくわくした。
ー**ー
二人で前とは少し違った道を歩いていると、見覚えのある影が二つ。
「ナタリー、ベン⁉どうしてきみたちがこっちにいるのかな?」
「カムイ!昨日家に行ったのよ?なのに誰も出ないし...だからあたしたちはこっちにきてるんじゃないかと思って探していたのよ」
「ナタリーがお嬢さんとカムイが心配だからと聞かなくて...すまねえだよ」
ベンはいつもナタリーのことで謝る。
この場合は謝る必要はないと思うのだが、彼は昔からこういう男だったと思いかえす。
「色々あって、しばらくはエリックの家の近所にいるから」
「分かった、じゃあ今度遊びにいくね!」
「扉を破壊しないならきてもいいよ」
「もうっ!あたしだってちゃんと学習」
「ナタリー、二人の邪魔になるから今日は帰るだよ」
ベンがナタリーを引きずるような形で二人は退散していく。
「お二人とも、本当に仲がいいですね」
「俺とメルも負けてないと思うよ?」
「そうでしょうか...?」
俺はメルの手を少し強引にひく。
「絶対に負けてない」
俺がそう宣言すると、メルはクスッと笑っていた。
「カムイって、負けず嫌いなんですね」
ー*ー
「そうかもしれない。メルのことになると冷静じゃいられなくなるし...」
「そうなんですか?」
カムイはいつも冷静でいるのだと思っていた。
慌てる姿を見たことがないからだ。
「俺だって、焦ることはあるよ。...着いたよ!」
そこは不思議な雰囲気がするお店だった。
「いらっしゃいませ」
店員さんの数も少なく感じた。
品物も少ないように感じる。
(これが普通なのでしょうか?)
「メル、あのミルクをとってきてくれる?」
「はい!」
持ってみると、それはずっしりと重かった。
「よいしょ...きゃっ」
転びそうになったところを唐牛でカムイに支えられる。
「ごめんね、これがすごく重いってことをすっかり忘れていたよ」
「ごめんなさい、役に立ちたかったのに逆にご迷惑を...」
ー**ー
俺は失敗したと思った。
メルには卵をとってきてもらえばよかったのだ。
「気にしないで、メルが悪い訳じゃないから...ね?」
「はい」
(大量に商品が入ったカゴも重いミルクも、女の子に持たせるものじゃないのに...)
俺は時々、メルのことを読み違えてしまう。
メルに対する態度も、メルの細かな仕草も。
今まで一度もはずしたことがなかったのに、メルのこととなると何故かはずしてしまうのだ。
昔、父が言っていたことを思い出す。
《好きな人のことは、よく分からなくなってしまうんだ。俺もお母さんのことが時々分からなくなる》
今ならその意味が分かる。
(愛が強いからこそ分からない、というやつか)
「カムイ...?」
「ごめんね、少しぼーっとしてた。会計をして帰ろうか」
「はい!」
メルはにこにこしている。
俺はこの笑顔に出会ってから、いつも心が温かくなる。
この子のためならなんでもできる気がする。
ー*ー
お会計が終わったあと、カムイが手をつないでくれる。
私たちの近くを親子連れが通った。
「ママ、僕今日はオムレツが食べたい!」
「いいわよ、今日はオムレツにしましょう!」
微笑みあう親子を見て、私は少し胸が苦しくなった。
(どうしてでしょう?いつもなら平気だったはずなのに...)
「メル?」
「いえ、なんでもありません」
「親子連れを見るのは、やっぱり辛い?」
「...少しだけ」
「ごめんメル。今日のご飯の予定は変更」
「え?」
「オムレツにしようか」
オムレツ...というものを、私は知らない。
何を使ったものなのかも全く想像がつかなかった。
「私は構いませんが...」
「じゃあ、明日のお昼にパンケーキを作ろう。卵をたくさん買ったから、オムレツも作れるよ」
「はい!」
(卵を使った料理なんですね)
私は、まだ慣れないあの場所へ早く帰りたくなった。
(カムイのお手伝い、ちゃんとできるでしょうか...?)
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

処理中です...