路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

文字の大きさ
112 / 220
Until the day when I get engaged. -Of light, ahead of it...-

第72話

しおりを挟む
ー**ー
時間はきっかり三十分。
今日の主役が現れる時間だ。
その十分前には全員がこの教会へとやってくる。
実質、残り二十分しかないということだ。
「...エリックは爆弾の解除。俺とメルでこの粉々のステンドグラスを直すから。そうだな...そこの懺悔室は?」
「おい、俺は何も悔いることなんて、」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ?早く」
「...分かった」
エリックなら、なにか方法を見つけられるかもしれない。
今はそれに賭けてみようと思った。
「ごめんね、メル...。いつも手伝ってもらってばかりで」
「いえ、私ができることはこれだけですから」
メルはそっと眼帯をはずした。
「カムイ、そのちっちゃい破片をこっちの大きい破片に...」
二人でなんとか完成させた。
...七分かかってしまった。
エリックは大丈夫だろうか。
「懺悔室に行こう」
メルは眼帯をつけ直し、俺に元気よく返事をかえす。
「はい!」
俺たちは走りだす。
一直線に、走りだす。
(なんでもいいから解決方法が見つかっていればいいけど...)
ーー式がはじまるまで、あと二十三分。
ー*ー
懺悔室の扉の前までくると、声が聞こえた。
「くそっ!」
エリックさんの、苛立つ声だ。
「その様子だと、打つ手なし?」
エリックさんは項垂れたように肩をガクリとおとす。
「じゃあエリック、交代。エリックは上行って、もしもの時に全員を避難させて。あと、メルを頼む」
「...分かった。大丈夫なのか?」
「うん、たしかに『今は』方法がないけど...絶対に止めてみせるから」
カムイはいつものように笑っている。
「よし、それじゃあメル...」
「イヤです」
「は?」
「私もここに残ります。だって...カムイが絶対に止めてくださるのなら、安心ですよね?」
私はズルいと自覚しながらも、どうしてもカムイのそばから離れたくなかった。
カムイは、また一人で全てを背負おうとしている。
それを見過ごすなんて、私にはできない。
「...分かった。じゃあ死んでも止めないとね。エリック、通信機を渡しておくから、上で何かあったら教えて」
「...おまえたちも、すぐに知らせろよ」
エリックさんは式場へ行った。
「さあ、ここからがはじまりだ」
ーー式がはじまるまで、あと十七分。
ー**ー
カムイは黒い箱を開けた途端、ため息をついた。
「これは...」
そこには小さな黒い箱と...無数の細い線があった。
さらに、大きな線が二つ...赤と青の線だ。
「...すごく複雑みたいだ」
「あの、私も見ていいですか?」
「いいよ」
メルは眼帯を再びはずした。
「...カムイ、この線とこの線を切ってください」
ー*ー
私の言葉にカムイはかなり驚いている。
「どの線を切るか、分かるの?」
「え?この黒い箱に繋がっている線を切るために、この箱に電気が流れないようにすればいいんですよね?だから、関係ない細い線から切るのかなって思ったのですが...」
「すごいね、メルは」
私は頭をぽんぽんと撫でられた。
...嬉しいが、そんなことを言っている場合じゃない。
「切ってください」
「了解」
カムイは慎重に私が指示したとおりに線を切ってくれる。
(えっと、次は...)
私は目を凝らす。
赤い線と青い線は恐らく最後だ。
この構造なら、それでいいはずだと自分に言い聞かせる。
私は爆弾を初めて見た恐怖より、ナタリーさんたちの幸せを願う思いの方が強かった。
(今のところは大丈夫です)
そんなとき、通信機から声が聞こえてくる。
『カムイ、いけそうか?』
「うん、大丈夫」
『...問題発生だ』
「どういうこと?」
『...式の開始が、突然五分早まることになったらしい』
ーー式がはじまるまで、あと十分から、残り五分になった。
ー**ー
奴の仕掛けだと、すぐに分かった。
(まさかここまでされるとは...!)
「メル、次はどれを切ればいい?」
「...!はい、えっと、これです!」
今はとにかく、爆弾を早く止めるしかない。
俺は黙々と手をすすめる。
「メル、最後の線になったよ。どっちを切ればいいかな?」
「えっと...」
メルは考えこみはじめた。
何か問題があるのだろうか。
「どうしたの?」
「...どちらも繋がっているんです。直接、その小さな黒い箱に...」
つまりは、どちらを切っても爆発する可能性があるということだ。
俺は通信機の音量をあげ、エリックに話しかける。
「ねえ、エリック。赤と青、どっちが好き?」
『そうだな...っておい、それは爆弾の線じゃないか!』
「あ、バレたか」
『バレたか、じゃない!止められそうにないなら...』
「あ、あの!『その人』が好きな色は、何色ですか?」
...面白いことを聞いてくるなと思った。
俺は通信機の音量を消音まで下げきり、思考を巡らせた。
「血の赤?いや、全身の血を抜いて殺していたこともあったから、青?」
「...分かりました」
エリックの方の音を聴くと、どうやらすでに式ははじまってしまったらしい。
「カムイ、両方を同時に切ってください」
「...え⁉」
メルの発言に、俺はただただ驚いた。
「お願いします。私を、信じてください」
メルの真剣な表情に、冗談で言っているわけではないことが分かった。
「...了解」
俺はメルを抱きよせ、そのままコードを同時に切る...。
ーー爆発まで、五、四、三...
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

処理中です...