泣けない、泣かない。

黒蝶

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泣かないver.

深刻な悩み

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すっかり遅くなってしまった帰り道。
自転車をこいで帰路を急いでいると、珍しく外出している恋人の姿が確認できた。
「ねえ、こんな時間に1人でいたら危ないよ」
「わっ!?」
「...ごめん。びっくりさせた?いきなり後ろから話しかけちゃったから...。
それにしても、その傷はどうしたの?」
「あ、えっと、これは、その...」
俺の大切な人...久遠は何故か焦ったような反応を見せた。
「...自分でやった?」
「どうしても我慢できなくて、勢いよくやっちゃった。
怒ってない...?」
「怒らないよ、そんな権利俺にはないし。
ただ、あんまり消毒したり包帯とかガーゼとか使わないように。
夏場はあんまりよくないんだって、ある人が言ってたんだ」
それは、憧れの人からの受け売り。
人に誇れるもの...俺自身、そういったものを持ち合わせていない。
だからせめて、受け売りでもいいから安心してほしかった。
力になれないかと思ったのだ。
「ちょっと痛そうだね...手、出してくれる?」
「え、あ、うん...」
今日に限っていいものを持っていない。
...これが1番マシだろうか。
使っていないハンカチをビリビリとおもいきり破り、久遠の腕の傷に当てた。
「どうして破っちゃったの?」
「綺麗な布ってこれくらいしか持ってないけど、ちょっとはマシになるかなって思って...。
ただ、帰ったら外してね。傷の治りが遅くなるって聞いたことがあるから」
「ありがとう」
久遠の笑顔に嘘はない。
ないからこそ、ちゃんと訊いておきたいと思う。
「バイトやテスト勉強でなかなか会いに行けなかったから状況が全然分からないんだけど...何か不安なことがある?」
「そんなこと、」
「あるからこんな時間に外に出てるんでしょ?
ちょっとこっちきて」
ただ話すのも疲れるだろうということでやってきたのは、少し離れた場所にある空き地。
「花火。線香花火しか入ってないやつだけど、よかったら一緒にやらない?
話したくないことは話さなくていいから、これやりながらしばらくここにいよう」
「...あ、ありがとう。だけど遅くなったらどうしよう」
「帰りはちゃんとバイクで送っていくから大丈夫」
今更では、というつっこみは敢えていれず、そのままふたりで話を続ける。
そのとき、きゅっと袖を掴まれた。
「ん?急にどうしたの?」
「私...休学が終わっちゃうんだけど、学校に行きたくない」
久遠は真っ直ぐな瞳でこちらを見つめる。
その目が潤んでいるように見えて、そういえばと反応を返す。
「9月からどうするか決めないといけないんだっけ」
俯きがちに頷く久遠に、思いきって提案してみた。
「...もし、ご両親が前向きに考えてくれるなら。
俺の学校きてみない?」
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