泣けない、泣かない。

黒蝶

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泣かないver.

1番の癒し

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本来なら、今夜も独りでただ起きていただろう。
もしかすると人が変わったように勉強していたのかもしれない。
だが、今日はそんなことにはならないだろう。
「...もう少しだけ、くっついてもいい?」
「別にいいけど、もしかして寒いのか?」
「実はちょっとだけ...」
人に遠慮しがちな久遠らしいと思いつつ、暖房の温度を上げる。
彼女が言いづらいと分かっていながら訊かなかった俺も俺だが、なかなか上手く伝えられない。
...それもいつもだ。
「悪い。もっと気にかけておくべきだった」
「ううん、私も言わなかったから...。それに、その、こんなふうに寝るときまで一緒にいられるのは嬉しいなって思ったんだ」
何故この可愛らしい生き物は、いつも俺のぎりぎりの理性を破壊するような言葉をぽんぽん伝えてくるのだろう。
鼓動が壊れてしまいそうなほど嬉しくて、けれど少しだけ複雑だった。
「そんな無防備なこと、他の奴には絶対言うなよ?」
「大翔じゃないとこんな気持ちにはならないよ」
柔らかい体温とオレンジの香りに包まれて、少しずつ微睡んでいくのを感じる。
...今夜は久しぶりに安眠できそうだ。
「久遠」
「どうしたの?」
「ありがとな」
「私、何もしてないよ?」
抱きしめる腕の力を強め、そのままぴったりくっつくような体勢をとる。
「こうして一緒にいてくれるだけで、今ものすごく安心してる」
「それならよかった...」
本当にほっとしたようにそう話す久遠の耳許で、そっと囁くように話しかける。
「...初詣、行ってみるか?穴場の神社を知ってるんだ」
「それは、詩音たちも呼んでってこと?」
「あのふたりは...」
兄貴たちのことだ、またお互いに気を遣って会わない可能性がある。
人がいなさすぎても見つかる可能性があるが、人混みで見つかったときのリスクはきっとかなり高い。
「4人で行こう」
「...いいのか?」
「人数が多い方がきっと楽しいよ」
楽しそうに笑う気配がして、遠慮しているわけではなさそうだというのをすぐに理解する。
「ありがとな」
「友だちの為でもあるから」
欠伸を噛み殺しながらそう答える声が可愛らしくて、つい抱きしめる腕に力をこめてしまう。
「眠くなってきただろ?そろそろ寝よう」
「うん。おやすみ...」
「おやすみ」
腕のなかから寝息が聞こえはじめて、それすらもいとおしく思っていたとき名前を呼ばれた。
「大翔...好き」
「なっ、」
どんな夢を見ているのかなんて分からない。
いつもとは別の理由でなかなか寝つけそうになかったが、心の保養にはその言葉だけで充分だった。
「...俺は愛してる」
しばらく固まってしまったが、目の前の唇にそっと口づけ目を閉じる。
...実はこうして一緒に過ごせる時間が、俺にとっては1番の癒しになっているのかもしれない。
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