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泣けないver.
夜が明けるまで
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「それじゃあ、いただきます」
「...いただきます」
ふたりで食べるご飯はやはりいつものものとは違って感じて、少しずつ食べ進める。
「実は今日はデザートも作ってあるからお楽しみに」
「え、作ってくれたの?全然気づかなかった...」
詩音にメインのおかずを作ってもらっている間、気づかれないように物音ひとつ立てずに作るのには苦労した。
そこまで本格的なものではないとはいえ、材料を見られてしまえばばれてしまうのは予測できている。
「ごめんね、ぶりを焼くのを任せっきりにしちゃって...」
「ううん。スイーツ、楽しみにしてる」
詩音はサラダやスープも美味しそうに食べてくれて、それが見ていてとてもいい気分だった。
なんでも残さず食べてくれる彼女は本当に綺麗で、その仕草ひとつに見惚れてしまう。
「ごちそうさまでした。すごく美味しかった...」
「私も美味しかった。ごちそうさまでした」
「お風呂、今沸かしたばかりだから先に入っておいで」
「ありがとう」
その隙に思わず冷やしてしまった生地を見つめ、もう1度焼き直す。
冷えていても美味しくない訳ではないが、温かい生地でもいいのではないか...そう思ったのだ。
「いいお湯でした」
「もっとゆっくり入ってきてもよかったのに...」
「これくらいでいいの。ドライヤー借りるね」
詩音の髪が渇く頃、かたんと目の前にお皿を置く。
「もしかして、デザートってクレープ?」
「うん。家で作ったことってあんまりなかったから、上手くいかなかったかもしれないんだけど、よかったら食べてみて」
一口囓りみるみるうちに頬が緩んでいくのを確認してから、僕は少しだけ真面目なトーンで訊いてみることにした。
「詩音はいつから1人で暮らしてるの?」
「...母が死んで半年経ってからだから、もう何年も前から。
私ね、どうしても父親の再婚を受け入れられなかったんだ。真実の愛ってひとつじゃないんだなって思うと悲しくて、お母さんとの想い出は私が護っていこうって思ったんだ。
あの人たちには子どもが2人くらいいるみたいだし...あの人の愛はそっちに向いてるはず」
だんだんと小さくなっていく声に、力強く抱きしめる。
そんなものを背負って生きるなんて、なんて酷なことなのだろう。
それからずっと1人で住んでいるということは中学校だって楽しく過ごせたはずはなくて...そう思うと、何だか堪らない気持ちになる。
「何も知らなくてごめん。それに、こういうときにどう声をかけていいのか分からなくて...ただ抱きしめることしかできなくてごめんね。
そんなことがあったら寂しいし、辛くなるよね」
瞬間、背中に回された腕の力が強くなる。
その手は震えていて、詩音の掠れた声が響いた。
「あの人たちにはもう二度と会うつもりはない。...でも、お願い。このまま一緒にいて?」
「勿論だよ。...詩音が寝るまで側にいる。だから、もっと泣いていいんだよ」
僕に抱きついたまま、詩音は涙が枯れるほど泣き続けた。
少しでも気が安らぐのなら、ずっとこのまま感情をぶつけてほしい。
せめて夜が明けるまでは隣で支えたい...そう思うと、僕はただ彼女の小さな体を支えることしかできなかった。
「...いただきます」
ふたりで食べるご飯はやはりいつものものとは違って感じて、少しずつ食べ進める。
「実は今日はデザートも作ってあるからお楽しみに」
「え、作ってくれたの?全然気づかなかった...」
詩音にメインのおかずを作ってもらっている間、気づかれないように物音ひとつ立てずに作るのには苦労した。
そこまで本格的なものではないとはいえ、材料を見られてしまえばばれてしまうのは予測できている。
「ごめんね、ぶりを焼くのを任せっきりにしちゃって...」
「ううん。スイーツ、楽しみにしてる」
詩音はサラダやスープも美味しそうに食べてくれて、それが見ていてとてもいい気分だった。
なんでも残さず食べてくれる彼女は本当に綺麗で、その仕草ひとつに見惚れてしまう。
「ごちそうさまでした。すごく美味しかった...」
「私も美味しかった。ごちそうさまでした」
「お風呂、今沸かしたばかりだから先に入っておいで」
「ありがとう」
その隙に思わず冷やしてしまった生地を見つめ、もう1度焼き直す。
冷えていても美味しくない訳ではないが、温かい生地でもいいのではないか...そう思ったのだ。
「いいお湯でした」
「もっとゆっくり入ってきてもよかったのに...」
「これくらいでいいの。ドライヤー借りるね」
詩音の髪が渇く頃、かたんと目の前にお皿を置く。
「もしかして、デザートってクレープ?」
「うん。家で作ったことってあんまりなかったから、上手くいかなかったかもしれないんだけど、よかったら食べてみて」
一口囓りみるみるうちに頬が緩んでいくのを確認してから、僕は少しだけ真面目なトーンで訊いてみることにした。
「詩音はいつから1人で暮らしてるの?」
「...母が死んで半年経ってからだから、もう何年も前から。
私ね、どうしても父親の再婚を受け入れられなかったんだ。真実の愛ってひとつじゃないんだなって思うと悲しくて、お母さんとの想い出は私が護っていこうって思ったんだ。
あの人たちには子どもが2人くらいいるみたいだし...あの人の愛はそっちに向いてるはず」
だんだんと小さくなっていく声に、力強く抱きしめる。
そんなものを背負って生きるなんて、なんて酷なことなのだろう。
それからずっと1人で住んでいるということは中学校だって楽しく過ごせたはずはなくて...そう思うと、何だか堪らない気持ちになる。
「何も知らなくてごめん。それに、こういうときにどう声をかけていいのか分からなくて...ただ抱きしめることしかできなくてごめんね。
そんなことがあったら寂しいし、辛くなるよね」
瞬間、背中に回された腕の力が強くなる。
その手は震えていて、詩音の掠れた声が響いた。
「あの人たちにはもう二度と会うつもりはない。...でも、お願い。このまま一緒にいて?」
「勿論だよ。...詩音が寝るまで側にいる。だから、もっと泣いていいんだよ」
僕に抱きついたまま、詩音は涙が枯れるほど泣き続けた。
少しでも気が安らぐのなら、ずっとこのまま感情をぶつけてほしい。
せめて夜が明けるまでは隣で支えたい...そう思うと、僕はただ彼女の小さな体を支えることしかできなかった。
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