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泣かないver.
いつものお泊まり
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「シャワー、先に使え。そのままじゃ風邪引くだろ」
「でも、それだと大翔が風邪引いちゃうよ」
いつかのようにそんな押し問答が続く。
結局なんとか押しきり、沸かしたばかりのお風呂に彼女を入れることができた。
「...今のうちに洗濯機まわしておくか」
がたがたと音をたてるそれは、先程の雨水を一気に落とすつもりで動いているようだった。
久遠がゆっくり入っている間に、お茶菓子を用意する。
そして、まだ渡せていない箱をそっと部屋の隅に隠した。
「もっとゆっくり入ってきてよかったのに」
「でも、私がゆっくり入りすぎたら大翔が風邪引いちゃうから...」
いつも俺のことを気遣ってくれるのはありがたいが、何故そこまで優しくしてくれるのだろう。
...人の優しさに触れるのは、やはり怖い。
いつかなくなってしまったらどうしよう、もしも久遠が側にいてくれなくなったら...もしそうなる日がくれば、俺の精神はきっと崩壊してしまうだろう。
「大翔、大丈夫...?」
「...悪い、ちょっとぼんやりしてた。ありがとな、そこのお菓子食べて待っててくれ」
「分かった」
それから浴室へ向かおうとすると、久遠に服を引っ張られる。
「...?どうした?」
「あの、その...」
久遠がこんなふうになるときは、相手に迷惑をかけないか不安になっているときだ。
だからしっかり瞳を見つめ、そのまま話が進むのを待つ。
「...今日も独りだから、泊まっていってもいいですか?迷惑ならすぐ帰るから...」
だんだん小さくなっていく言葉に、俺はただ頭を撫でることしかできない。
「明日は急ぎの用もないし、ここでよければ泊まっていけばいい」
「本当...?邪魔になったりしない?」
「全然邪魔なんかじゃない。寧ろいてくれた方が俺も嬉しい。
ただ、足りないものがあるなら買い足しに行かないとな」
「ううん、大丈夫。...今日、体育の筆記テストなのに間違えてジャージ一式持ってきちゃったんだ。
それに、洋服はさっき買ってくれたものがあるから平気だよ。ありがとう」
久遠はくまのぬいぐるみを鞄から取り出し、もふもふとしたそれを撫でている。
「それ、本当に気に入ってくれたんだな」
「大翔がくれたものだから、この子がいれば寂しくないかなって思って...」
「...そうか」
照れくさそうに笑っている彼女の腕の中には、ゲームセンターで手に入れたぬいぐるみがつぶらな瞳で抱きしめられている。
そんな姿を見ていると可愛らしくて、どんなふうに動けばいいのか分からない。
「...久しぶりだし、髪乾かしてやる」
「ありがとう」
ふたり揃って頬を赤らめつつ、慎重に髪を乾かしていく。
何週間かぶりに触れたそれはとても柔らかかった。
「でも、それだと大翔が風邪引いちゃうよ」
いつかのようにそんな押し問答が続く。
結局なんとか押しきり、沸かしたばかりのお風呂に彼女を入れることができた。
「...今のうちに洗濯機まわしておくか」
がたがたと音をたてるそれは、先程の雨水を一気に落とすつもりで動いているようだった。
久遠がゆっくり入っている間に、お茶菓子を用意する。
そして、まだ渡せていない箱をそっと部屋の隅に隠した。
「もっとゆっくり入ってきてよかったのに」
「でも、私がゆっくり入りすぎたら大翔が風邪引いちゃうから...」
いつも俺のことを気遣ってくれるのはありがたいが、何故そこまで優しくしてくれるのだろう。
...人の優しさに触れるのは、やはり怖い。
いつかなくなってしまったらどうしよう、もしも久遠が側にいてくれなくなったら...もしそうなる日がくれば、俺の精神はきっと崩壊してしまうだろう。
「大翔、大丈夫...?」
「...悪い、ちょっとぼんやりしてた。ありがとな、そこのお菓子食べて待っててくれ」
「分かった」
それから浴室へ向かおうとすると、久遠に服を引っ張られる。
「...?どうした?」
「あの、その...」
久遠がこんなふうになるときは、相手に迷惑をかけないか不安になっているときだ。
だからしっかり瞳を見つめ、そのまま話が進むのを待つ。
「...今日も独りだから、泊まっていってもいいですか?迷惑ならすぐ帰るから...」
だんだん小さくなっていく言葉に、俺はただ頭を撫でることしかできない。
「明日は急ぎの用もないし、ここでよければ泊まっていけばいい」
「本当...?邪魔になったりしない?」
「全然邪魔なんかじゃない。寧ろいてくれた方が俺も嬉しい。
ただ、足りないものがあるなら買い足しに行かないとな」
「ううん、大丈夫。...今日、体育の筆記テストなのに間違えてジャージ一式持ってきちゃったんだ。
それに、洋服はさっき買ってくれたものがあるから平気だよ。ありがとう」
久遠はくまのぬいぐるみを鞄から取り出し、もふもふとしたそれを撫でている。
「それ、本当に気に入ってくれたんだな」
「大翔がくれたものだから、この子がいれば寂しくないかなって思って...」
「...そうか」
照れくさそうに笑っている彼女の腕の中には、ゲームセンターで手に入れたぬいぐるみがつぶらな瞳で抱きしめられている。
そんな姿を見ていると可愛らしくて、どんなふうに動けばいいのか分からない。
「...久しぶりだし、髪乾かしてやる」
「ありがとう」
ふたり揃って頬を赤らめつつ、慎重に髪を乾かしていく。
何週間かぶりに触れたそれはとても柔らかかった。
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