夜紅前日譚

黒蝶

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其の陸

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次に目を開けたとき、外から朝日がさしこんでいた。
「ここ、は…」
さっきの部屋と違う。穂乃がいない。
手足にさっきより沢山の札が貼られていて、少し体勢を変えるだけでせいいっぱいだ。
「…食事だ」
そう言って目の前でスープのようなものが入った容器をひっくりかえされる。
「ああ、すまない。ついうっかり」
下品な笑い声をあげるそいつに怒りがこみあげてくる。
気づいたときには一発殴っていた。
「く、くそ、が…」
意識を失ったそいつの携帯を奪い、義政さんの番号にかけてみる。
『……誰だ』
「義政、さん。穂乃が、見当たらないんだ。神宮寺本家のどこかだけど、分からなくて」
『え、詩乃ちゃん!?』
「お願い、穂乃を…」
『大体の事情は察した。待ってて。絶対行くから』
「…ありがとうございます」
履歴を消し、思い切って外に出てみる。
一体どれくらい寝ていたんだろう。
近くに人の気配を感じてすぐ隠れた。
「…それで、儀式は成功するんだろうね?」
「はい。素晴らしい潜在能力の持ち主です。贄には丁度いいかと」
「もうひとりはこの神宮寺家のために使わせていただきましょう。贄の存在を脅しに使えば、ね」
話を聞いてすぐ理解した。今夜中にどうにかしないと、穂乃が殺されてしまうことを。
持ち物は全て盗られてしまっていたものの、スープを持ってきた男が持っていた鍵に小部屋と書かれたものがあった。
「…ここか」
幸いすぐに部屋を見つけ、そこに放られていた荷物をまとめる。
不自然に草が積みあげられていて、そこを掘ってみると外に通じる穴があった。
子どもの字で書かれた2枚のメモが埋もれていて、その内容に驚愕する。
【そとにでたい。わたしはむりでも、つぎのこは】
【このメモを見つけた人へ、ここからにげられます。足がはやいから、がんばってにげてね。
よしまさ】
義政さんはこの家から逃げたと話していたのは、この家の異常性に気づいたからだ。
そして、残りのメモの持ち主はもう──
《やっと見つけました》
「…え、風雲?」
《穂乃の居場所は分かりますか?》
「まだ見つけられてない。さっきくすねた鍵の束ならここにあるけど、どこにいるかまではさっぱり」
《義政は夜まで来られそうにありません。守衛が手薄にならなければ、私ひとりを通すのが限界だと》
「…そうか」
その間はひとりでなんとかするしかない。
動く度ずきずき痛む体をなんとか動かし、部屋の外に出る。
「…風雲はこの部屋について知ってるのか?」
《折檻部屋としか聞かされていません。ただ、幼い義政が逃げるには好都合の場所だったと話していました。
本来であれば先にあなたを逃がすべきなのでしょうが──》
「ごめん。ちゃんと護るって約束したんだ」
穂乃を置いていくわけにはいかない。
幸い、使えそうな武器はもう持っている。
《夜までここにいましょう。見張りなら私がやりますから》
「ありがとう」
風雲から義政さんの話を聞きながら、息を殺して夜まで待った。
…日中の私は夜以上に無力だから。
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