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6日目
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この日は土曜日。苦手な場所も午前だけで終わる。
「…最悪だ」
それでもそんな一言が口から出てしまったのには理由がある。
「穂村さん、職員室に来てもらえる?」
「…はい」
こんなふうに言われてしまえば、脱出するのは容易ではない。
だが、ここで行かずに面倒ごとになるのは勘弁だった。
「穂村さん、何か嫌なことでもあったの?」
「いえ、何も」
「進路は決めた?」
「いいえ」
この人たちにそんなことは関係ない。
少なくとも、僕のことなんか知らぬ存ぜぬでいるこの人に何を話しても無駄だ。
「失礼します」
将来の話なんて今の僕には眩しすぎる。
病院までの道、独り息を吐く。空にはうっすら雲がかかっていた。
「掃除終わりました」
一応報告して病院の一角を後にする。
今の僕にはやらなければならないことがあるのだから。
「…いただきます」
それから朝食の残りものを詰めた昼食を摂る。
何を食べてもそんなに味がしないが、今日のはなんとなく上手くできているような気がした。
「空が降って…いや、空を駆けて…」
それから歌詞を少しずつ埋めていくが、これでいいという表現が出てこない。
それに、まだ彼女が探している曲に辿り着けていないのだ。
「奏多さん!」
「…やっぱり来たんだ」
「実は昨日、覚えているメロディーを弾いてみたんです。よければ聞いていただけませんか?」
「僕でよければ」
「ありがとうございます。それでは早速いきますね」
彼女の顔はいきいきしていて、その手は昨日あげたばかりのピアノに置かれる。
どんな曲がくるのかと身構えていると、その手は一気に走り出した。
その演奏に思わず息を呑む。
まるでプロのリサイタルを聴いているかのような感覚に包まれ、黙って見ていることしかできなかった。
「こんな感じの曲です。伝わりましたか?」
「綺麗な曲だった」
「そう言っていただけてよかったです。この病院の中庭で聴いたことがあったんですけど、誰が歌っていたかまでは知らないんです。
見つけられたらきちんとお礼を伝えたくて…勿論、今は奏多さんの歌一筋ですが、あのときの私にとってあの歌が救いでしたから」
「…君は心が綺麗だね」
僕とは違う。話が何もかも眩しくて、ただ姿を直視するだけで苦しい。
「そんなことありませんよ。というより、奏多さんの方が綺麗じゃないですか」
「僕の心が?」
「はい!そうじゃないと、あんなふうには歌えません。それに、心が綺麗だから傷ついているんだと思います」
まさかそんなことを言われるなんて思わなかった。
そんなふうに思ったこともなくて、きっと僕は誰より穢れていると思っていたのに…相変わらず彼女は真っ直ぐだ。
「それでは奏多さん。また明日お会いしましょう」
「…分かった」
今日は歌を聴かせられなかったと後悔しつつ帰路につく。
また明日なんて言葉がこんなに続いているのは想定外だ。
【今日は奏多さんに曲を聴いてもらいました。
あの曲には応援の意味がこめられていたような気がします。
あの方が抱えているのはどんなことなのでしょうか。今日も結局質問することはできませんでしたが、いつか教えてもらえる日がきてほしいです】
「…最悪だ」
それでもそんな一言が口から出てしまったのには理由がある。
「穂村さん、職員室に来てもらえる?」
「…はい」
こんなふうに言われてしまえば、脱出するのは容易ではない。
だが、ここで行かずに面倒ごとになるのは勘弁だった。
「穂村さん、何か嫌なことでもあったの?」
「いえ、何も」
「進路は決めた?」
「いいえ」
この人たちにそんなことは関係ない。
少なくとも、僕のことなんか知らぬ存ぜぬでいるこの人に何を話しても無駄だ。
「失礼します」
将来の話なんて今の僕には眩しすぎる。
病院までの道、独り息を吐く。空にはうっすら雲がかかっていた。
「掃除終わりました」
一応報告して病院の一角を後にする。
今の僕にはやらなければならないことがあるのだから。
「…いただきます」
それから朝食の残りものを詰めた昼食を摂る。
何を食べてもそんなに味がしないが、今日のはなんとなく上手くできているような気がした。
「空が降って…いや、空を駆けて…」
それから歌詞を少しずつ埋めていくが、これでいいという表現が出てこない。
それに、まだ彼女が探している曲に辿り着けていないのだ。
「奏多さん!」
「…やっぱり来たんだ」
「実は昨日、覚えているメロディーを弾いてみたんです。よければ聞いていただけませんか?」
「僕でよければ」
「ありがとうございます。それでは早速いきますね」
彼女の顔はいきいきしていて、その手は昨日あげたばかりのピアノに置かれる。
どんな曲がくるのかと身構えていると、その手は一気に走り出した。
その演奏に思わず息を呑む。
まるでプロのリサイタルを聴いているかのような感覚に包まれ、黙って見ていることしかできなかった。
「こんな感じの曲です。伝わりましたか?」
「綺麗な曲だった」
「そう言っていただけてよかったです。この病院の中庭で聴いたことがあったんですけど、誰が歌っていたかまでは知らないんです。
見つけられたらきちんとお礼を伝えたくて…勿論、今は奏多さんの歌一筋ですが、あのときの私にとってあの歌が救いでしたから」
「…君は心が綺麗だね」
僕とは違う。話が何もかも眩しくて、ただ姿を直視するだけで苦しい。
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「はい!そうじゃないと、あんなふうには歌えません。それに、心が綺麗だから傷ついているんだと思います」
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今日は歌を聴かせられなかったと後悔しつつ帰路につく。
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あの曲には応援の意味がこめられていたような気がします。
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