11 / 35
10日目
しおりを挟む
水曜日は授業がいつもより1時間ほど早く終わる、
だから予約を入れることが多いのだが、今回は予想以上に早く順番が回ってきた。
「変わったことはありませんか?」
「ありません」
疲れた様子の主治医に話せることなんてない。
5分もかからずに診察を終わらせ、小走りで別棟に向かう。
実はこちらから行った方が近道だということに気づいた僕は、診察の日や清掃の仕事が終わった後だけこちらの道を使っている。
屋上へ向かったものの、そこにはまだ誰もいなかった。
「──♪」
空に向かって誰も聞いていない言葉を形にする。
僕はこのやり方でしか人と繋がることができない。
歌は楽しいし好きだ。それに、ずっと仲良くしていられる。
だから僕は創るのをやめない。
どれだけ馬鹿にされても大切なのは変わらないし、僕にはこれしか残っていないのだ。
あと20日ほどで終わるそのときまでに、森川との1曲を完成させよう。
「よかった、今日はちゃんと聴けました!」
「…いつからいたの?」
「最初からです。と言っても、今日はキーボードを運ぶのに時間がかかってしまいましたが…」
森川はただ笑っていたが、何か言いたそうな顔をしている。
「…別に僕相手には気を遣わなくていい」
「え?」
「何か言いたいことがあるんでしょ?大抵のことでは傷つかないから隠さなくていい」
「奏多さんに歌詞を見てほしかったんです。だけど、いちファンの詞なんて…」
「そんなことない。一緒に曲を創るなら大切なことだし、どんなふうに表現しているか知りたい」
彼女が何を感じ、何を思っているのか知りたい。
ついでに時折見せる悲しげな表情の理由も分かればいい程度に思っている。
「どうでしょうか?」
そのノートには、ひたすら綺麗な言葉が並んでいた。
僕の言葉とは全然違って逆に楽しい。
難しい言葉も入っているらしく、全然意味が分からないものもある。
「これが、君から見た世界?」
「多分、そういうことで大丈夫だと思います」
「…綺麗だね。これに音をつけてみるのもいいと思う」
「ありがとうございます!だけど、奏多さんの言葉も入れてみてほしいな、なんて…欲張りでしょうか?」
「僕のはあんまり綺麗じゃないよ?」
「奏多さんの言葉がいいんです」
森川はそんなことを言ってただ笑う。
それは決して誰かを見下すようなものではなく、純粋に何かを知りたがっている目だった。
「分かった。それなら少しだけこの歌詞をいじらせてもらう」
「はい!お願いします」
それから少しずつ言葉を並べて音をつけ…Aメロは完成した。
「こうしてできあがっていくと、なんだか不思議ですね」
「そういうものだと思う。慣れるまでは多分そんな感覚が続く」
「わくわくします!…すみません、今日はもう行かないと。それでは、また明日」
「…うん、また」
少し寂しいと感じてしまうのは、彼女の存在を意識しはじめているからだろうか。
できればそうなりたくなかったがこればかりは仕方ない。
…大切なものができればそれが失われるのは一瞬だと分かっているのに、どうしても頭から離れなかった。
【奏多さんの言葉はどれも苦しそうで、悲しみがこめられていました。私が書いたものを褒めてもらえて嬉しかったです。
もう少し色々なことを知りたいと思っていますが、奏多さんはどう思っているのでしょうか?迷惑になっていないことを祈りつつ、少しだけ思い出した曲の一節を明日弾いてみようと思います】
だから予約を入れることが多いのだが、今回は予想以上に早く順番が回ってきた。
「変わったことはありませんか?」
「ありません」
疲れた様子の主治医に話せることなんてない。
5分もかからずに診察を終わらせ、小走りで別棟に向かう。
実はこちらから行った方が近道だということに気づいた僕は、診察の日や清掃の仕事が終わった後だけこちらの道を使っている。
屋上へ向かったものの、そこにはまだ誰もいなかった。
「──♪」
空に向かって誰も聞いていない言葉を形にする。
僕はこのやり方でしか人と繋がることができない。
歌は楽しいし好きだ。それに、ずっと仲良くしていられる。
だから僕は創るのをやめない。
どれだけ馬鹿にされても大切なのは変わらないし、僕にはこれしか残っていないのだ。
あと20日ほどで終わるそのときまでに、森川との1曲を完成させよう。
「よかった、今日はちゃんと聴けました!」
「…いつからいたの?」
「最初からです。と言っても、今日はキーボードを運ぶのに時間がかかってしまいましたが…」
森川はただ笑っていたが、何か言いたそうな顔をしている。
「…別に僕相手には気を遣わなくていい」
「え?」
「何か言いたいことがあるんでしょ?大抵のことでは傷つかないから隠さなくていい」
「奏多さんに歌詞を見てほしかったんです。だけど、いちファンの詞なんて…」
「そんなことない。一緒に曲を創るなら大切なことだし、どんなふうに表現しているか知りたい」
彼女が何を感じ、何を思っているのか知りたい。
ついでに時折見せる悲しげな表情の理由も分かればいい程度に思っている。
「どうでしょうか?」
そのノートには、ひたすら綺麗な言葉が並んでいた。
僕の言葉とは全然違って逆に楽しい。
難しい言葉も入っているらしく、全然意味が分からないものもある。
「これが、君から見た世界?」
「多分、そういうことで大丈夫だと思います」
「…綺麗だね。これに音をつけてみるのもいいと思う」
「ありがとうございます!だけど、奏多さんの言葉も入れてみてほしいな、なんて…欲張りでしょうか?」
「僕のはあんまり綺麗じゃないよ?」
「奏多さんの言葉がいいんです」
森川はそんなことを言ってただ笑う。
それは決して誰かを見下すようなものではなく、純粋に何かを知りたがっている目だった。
「分かった。それなら少しだけこの歌詞をいじらせてもらう」
「はい!お願いします」
それから少しずつ言葉を並べて音をつけ…Aメロは完成した。
「こうしてできあがっていくと、なんだか不思議ですね」
「そういうものだと思う。慣れるまでは多分そんな感覚が続く」
「わくわくします!…すみません、今日はもう行かないと。それでは、また明日」
「…うん、また」
少し寂しいと感じてしまうのは、彼女の存在を意識しはじめているからだろうか。
できればそうなりたくなかったがこればかりは仕方ない。
…大切なものができればそれが失われるのは一瞬だと分かっているのに、どうしても頭から離れなかった。
【奏多さんの言葉はどれも苦しそうで、悲しみがこめられていました。私が書いたものを褒めてもらえて嬉しかったです。
もう少し色々なことを知りたいと思っていますが、奏多さんはどう思っているのでしょうか?迷惑になっていないことを祈りつつ、少しだけ思い出した曲の一節を明日弾いてみようと思います】
0
あなたにおすすめの小説
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる