君と30日のまた明日

黒蝶

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11日目

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翌日、検査の順番を待っていたら見知った姿が目に入る。
「奏多さ…」
声をかけようとしたけど、今の状態を見られたら関係が終わってしまうような気がして何も言えない。
「森川さん、森川彩さん」
「は、はい」
最近検査が増えてつまらない。
検査より今はピアノを弾きたいのに…なんて思ってしまうのは、いけないことだろうか。
「ありがとうございました」
一礼して診察室を出ると、今度は清掃の人の格好をした奏多さんがいた。
目が合ってしまって、会話が避けられない状態になる。
「…今日は来られそう?それとも忙しい?」
「え、あ、大丈夫です。奏多さんよりは早く行きますよ。お仕事ですか?」
「少しだけ。来られなくなった人がいるから代わりに入った」
「そうだったんですね」
「5時までには行く」
「お待ちしてます」
できるだけ普通に話したつもりだったけど、変な感じにならなかっただろうか。
変わったものを見るような目で見られると思っていたのに、彼は普通に接してくれた。
…気のせいじゃなければいいけど、その自信はない。
「お待たせ」
奏多さんは時間どおりに来てくれて、私にお茶を渡してくれる。
そういえば前にもこんなことがあった気がするけど、奏多さんはこのお茶が好きなのだろうか。
「…ごめん」
「どうして謝るんですか?」
「本当は少し前からなんとなく入院してることは予想してた」
「分かっていたのに黙っていてくれたんですか?」
「確証がなかったんだ。袖が捲れたとき、腕に痕があるのが見えて…。
だけど、君を傷つけたくなかった。訊いたことによって傷つけるんじゃないかって不安になったんだ」
その表情はなんだか苦しそうで、どうしてそんな顔をするのかすぐに理解した。
「やっぱり奏多さんは優しいですね。たしかに今は入院中ですけど、すぐによくなります。
だから、そんなに心配しなくても大丈夫です」
「君がそう言うなら信じる」
「はい。信じてください」
私にはただ笑ってそう話すことしかできない。
ただ、何を話しても態度を変えない奏多さんには感謝しかなかった。
「こっちの歌詞、もう少しだけいじってもいい?」
「勿論です!きっと素敵なものになりますから…」
「今日も羽ばたいてただ散る…これだと単純かもしれない」
「それなら、飛び立っていったけれどついに散ってしまったというふうにするのはどうでしょうか?」
「いいと思う」
「いつか思いは想い出に、過ぎ去りし日々は目眩くめくるめく歯車に変わる…素敵だと思います」
「まさかこの字でそんな読み方をするとは思ってなかったけど、君は博識なんだね」
「そんなことありませんよ?ただ、いつも読んでいる本に出てきただけで…」
前は奏多さんの歌を聴いているのが楽しかったけど、今はふたりで話している時間も楽しい。
今日も帰る前に歌ってくれて、それが心に響いた。
「ありがとうございました。それではまた明日」
「…また」
彼の後ろ姿を見送って、ただ息を吐く。
このまま関係が続いてほしいなんて言ったら、困らせてしまうだろうか。

【やはり森川の腕にあったのは点滴の痕だったらしい。
それならきっと、あの歌詞は思ったとおり窓から見える世界を参考に書いたものだったんだろう。
彼女の強さはどこから来るのか知りたい。僕のことも、少し話した方がいいのかもしれない】
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