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12日目
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「お疲れ様です」
掃除が終わり、ヘッドホンをしようとした瞬間後ろから声がした。
「医師、ありがとうございました」
「元気になられてよかったです。沢山やりたいことをやって、楽しんでね」
「ありがとうございました」
元気になった子どもに涙ぐむ母親と思われる人物、その前で微笑む医師…ここでは時折映画のような日常が目の前に広がる。
森川はどうなんだろう。
検査もかなり多いように見えたが、病状については話したくなさそうだ。
それを無理に聞き出すようなことはしたくない。
辛いと思ったことも逃げ出したいと思ったこともあるはずなのに、何故彼女はあれだけ穏やかな笑みを浮かべていられるのか…考えても答えは出なかった。
「──♪」
屋上には誰もおらず、その間に昨日完成させた詞に適当なメロディをつけて歌ってみる。
あまり上手くできているような気はしないが、ある程度完成させられるかもしれない。
「奏多さん」
後ろを見ると、ピアノを運んできた森川がこちらに向かって手をふっている。
「僕の方が早いなんて珍しいね」
「すみません。少し寝てまして…」
「謝る必要なんてない。具合が悪いわけじゃないならいいんだ。…今度君の部屋に行っていい?」
「私の部屋にですか?何もないですよ」
「お見舞いに物があるもないも関係ないでしょ?嫌なら無理にとは言わないけど、」
「奏多さんの家の住所を教えてくれたら、私の病室に遊びに来られるようにお願いしておきます」
まさかの条件に若干戸惑ったが、彼女が何の意味もなくそんなことを訊いてくるとは思えない。
千切ったメモ用紙に住所を書き、それをそのまま渡す。
「これでよかった?」
「冗談だったのに…ありがとうございます。私も約束は守りますね」
「うん」
何故こんなにも彼女に吸いこまれてしまうのか、自分でも分からない。
だが、どうしても目が離せなかった。
「さっきの歌、初めて聴きましたが私は好きです」
「君と考えたものに適当なメロディをつけただけだよ」
「奏多さんはやっぱりすごいです!そんなこと、私にはできませんから」
「今回はたまたまできただけ」
早く仕上げたいというのと彼女を深く知りたいという思いだけで作っている。
「だけど、これだけじゃ足りない」
「そうなんですか?」
「伴奏をつけたいし、まだ創りきれていない気がする」
何がと言われると上手く答えられないが、なんとなくしっくりこないのだ。
「どうやって考えているんですか?」
「空を見ながらが多いかな。あとは道具の手入れをしながらとか、勉強の休憩時間とか…」
「勉強していらっしゃるんですね」
してなさそうに見えたのか。
たしかに音楽の話くらいしかしたことがないなら、そう思われるのも無理はない。
「それでは奏多さん、また明日」
「うん。…また」
取り敢えず完成させた手書きの歌詞を渡し、そのままぼんやり空を見上げる。
その明るさは今の僕にとっては毒で、思わず目を逸らした。
【今日はなんだか眠くて、あまり奏多さんと話ができませんでした。
ただ、今日は予想外の出来事があって奏多さんの住所を知りました。嬉しかったなんて言ったら怒られるでしょうか?
…一先ず今は、病室に遊びに来てくれるのを楽しみに待とうと思います】
掃除が終わり、ヘッドホンをしようとした瞬間後ろから声がした。
「医師、ありがとうございました」
「元気になられてよかったです。沢山やりたいことをやって、楽しんでね」
「ありがとうございました」
元気になった子どもに涙ぐむ母親と思われる人物、その前で微笑む医師…ここでは時折映画のような日常が目の前に広がる。
森川はどうなんだろう。
検査もかなり多いように見えたが、病状については話したくなさそうだ。
それを無理に聞き出すようなことはしたくない。
辛いと思ったことも逃げ出したいと思ったこともあるはずなのに、何故彼女はあれだけ穏やかな笑みを浮かべていられるのか…考えても答えは出なかった。
「──♪」
屋上には誰もおらず、その間に昨日完成させた詞に適当なメロディをつけて歌ってみる。
あまり上手くできているような気はしないが、ある程度完成させられるかもしれない。
「奏多さん」
後ろを見ると、ピアノを運んできた森川がこちらに向かって手をふっている。
「僕の方が早いなんて珍しいね」
「すみません。少し寝てまして…」
「謝る必要なんてない。具合が悪いわけじゃないならいいんだ。…今度君の部屋に行っていい?」
「私の部屋にですか?何もないですよ」
「お見舞いに物があるもないも関係ないでしょ?嫌なら無理にとは言わないけど、」
「奏多さんの家の住所を教えてくれたら、私の病室に遊びに来られるようにお願いしておきます」
まさかの条件に若干戸惑ったが、彼女が何の意味もなくそんなことを訊いてくるとは思えない。
千切ったメモ用紙に住所を書き、それをそのまま渡す。
「これでよかった?」
「冗談だったのに…ありがとうございます。私も約束は守りますね」
「うん」
何故こんなにも彼女に吸いこまれてしまうのか、自分でも分からない。
だが、どうしても目が離せなかった。
「さっきの歌、初めて聴きましたが私は好きです」
「君と考えたものに適当なメロディをつけただけだよ」
「奏多さんはやっぱりすごいです!そんなこと、私にはできませんから」
「今回はたまたまできただけ」
早く仕上げたいというのと彼女を深く知りたいという思いだけで作っている。
「だけど、これだけじゃ足りない」
「そうなんですか?」
「伴奏をつけたいし、まだ創りきれていない気がする」
何がと言われると上手く答えられないが、なんとなくしっくりこないのだ。
「どうやって考えているんですか?」
「空を見ながらが多いかな。あとは道具の手入れをしながらとか、勉強の休憩時間とか…」
「勉強していらっしゃるんですね」
してなさそうに見えたのか。
たしかに音楽の話くらいしかしたことがないなら、そう思われるのも無理はない。
「それでは奏多さん、また明日」
「うん。…また」
取り敢えず完成させた手書きの歌詞を渡し、そのままぼんやり空を見上げる。
その明るさは今の僕にとっては毒で、思わず目を逸らした。
【今日はなんだか眠くて、あまり奏多さんと話ができませんでした。
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