君と30日のまた明日

黒蝶

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13日目

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「彩ちゃん、おはよう」
「おはようございます」
「そういえば、面会の申請があったみたいなんだけど…穂村奏多さんって知ってる人?」
「はい。大切な人なんです」
「分かりました。それなら許可します。穂村さんにも伝えておいてね」
「ありがとうございます」
西田さんは笑っていたけど、なんだか元気がないような気がする。
た細かいことを訊いてしまっていいのか分からなくて、ただ笑って見送った。
「…さて、今日も頑張りますか」
実は病室にはぬいぐるみがふたりいる。
その子たちに聴かせるように弾くのが最近の日課だ。
大きな音は出せないから、取り敢えず屋上や小さな部屋を借りてやることが多い。
しばらく演奏していると、後ろから拍手の音がする。
「相変わらず早いね」
「奏多さん…!」
顔には昨日までなかったガーゼが貼られていて、それがとても痛そうだ。
「その怪我、どうしたんですか?」
「少し転んだだけだから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
それはちっとも少しに見えなくて、詳しい理由を知りたいと思った。
だけど、奏多さんはすごく苦しそうだ。
「奏多さんが好きな曲を教えてください」
「なんで急にそんなことを訊くの?」
「知りたいと思ったからです」
「…プレイヤー貸して」
そう言われて渡すと、すぐに5番目の曲をかけてくれた。
「僕が好きなのはこの流星っていうやつ。どうして?」
…よかった。それならなんとかなりそうだ。
「えっと…少し座っててくださいね」
ミニピアノに指をおいて、そのまま勢いよく弾いてみる。
手元が狂ってしまわないか心配だったけど、なんとかやりきった。
「…どうでしょうか?」
気に入ってもらえなかったんじゃないか、余計なことをしたんじゃないか…色々な不安が押し寄せるのを感じながら顔をあげる。
奏多さんは真っ直ぐ私を見て微笑んだ。
「楽譜もないのにここまで忠実に弾けるなんて、やっぱり君はすごいね。
おかげでやっぱり音楽は希望だって思った。…ありがとう森川」
「お役に立てたならよかったです。何回か練習はしたんですけど、人に聴いてもらえるものなのか悩んでいたので…。
弾く相手がいるわけではありませんが、奏多さんに聴いてもらえてよかったです」
「…僕でよかったの?」
「あなたがいいんです」
今は他の誰でもない、奏多さんに聴いてほしい。
何に傷ついているのかなんて今はまだ分からないけど、それでもただできるだけ彼の心の近くにいたかった。
「そうだ、お見舞いの許可が降りました。病室はここです。気が向いたら遊びに来てください」
「分かった。…森川は食べられないものとかないの?」
「基本的にはありません。あ、だけど辛いものは苦手です」
「僕も辛いものはあんまり好きじゃない」
そんな他愛のない話をして、奏多さんの歌を聴いて…そうこうしているうちにもう陽が沈みかけていた。
「今日もありがとうございました。それでは奏多さん、また明日」
「…うん。また」
いつものように別れて、そのまま病室へ戻る。
今日は少し体が怠いから、ご飯の時間まで寝てしまおう。

【今日も森川はこの世で1番美しい旋律を奏でる。
それを聴けるのが僕だけなんて勿体ない気もするが、彼女が望んでくれるならもう少し頑張って生きてみようと思う。
その一方で、学校というものの窮屈さを感じる。喬木を後ろから突き飛ばしたのは誰だろう。
…誰であれ、何がどう変わるということもないのだが】
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