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14日目
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「お疲れ様でした」
掃除を終え、ひと足先にその場を離れる。
今日は屋上へ行く前にどうしても足を運んでおきたい場所があった。
「すみません、森川彩さんのお見舞いに来た、穂村奏多という者なんですけど…」
「彼女から聞いています。こちらの許可証をなくさず、次回以降もこちらを見せてからお入りください」
「分かりました」
今日は朝から雨だし、屋上まで来て体を冷やせば風邪をひくかもしれない。
僕は慣れているが彼女は違う。
「お邪魔します」
扉を開けると、そこには物がほとんどない部屋が広がっていた。
女性の部屋に入ったことがなかったので一般的な場合がどうなのか分からないが、少なくとも森川がここで長く過ごしているであろうことは想像できる。
ベッドの上でぐっすり眠っている彼女を起こすのも申し訳なくて、そのまま部屋をぼんやり眺めた。
僕があげたピアノやプレイヤー、本が数冊にふたつのぬいぐるみ…本当に物が少ない。
何か飲み物を買ってこようと部屋を出ようとした瞬間、がたっと小さく音がした。
「え、奏多さん!?」
「ごめん。起こすつもりはなかったんだ。飲み物買ってくるから5分くらいかかると思う」
「分かりました」
病衣を纏った森川はいつものように着替えるつもりでいるのかもしれない…それなら今は出ておいた方がいいだろう。
お茶を買ったついでに持ってきたミニチュロスを確認する。
これなら食べられるとは思うが、大丈夫だろうか。
「…食べる?」
「いいんですか?」
「食べていいものならどうぞ。あと、こっちの飴は何日か置いておけるから。オレンジに林檎、薄荷も作ったよ」
「え、作ったって…全部奏多さんの手作りなんですか!?」
買ったものだと嘘を吐くわけにもいかず、ただ正直に答える。
「一応。料理するのは好きだから、できるだけやってみたんだ」
「嬉しいです!このお菓子は初めて見ましたし…」
「それはチュロス。本当はもっと長いんだけど、沢山食べるのは無理かもしれないと思ったんだ」
「そうだったんですか…そうだ!奏多さん、歌ってください」
「え、今?」
彼女のわくわくした瞳にノーを突きつけることはできない。
いつものように歌いながら、森川が楽しそうに笑う様子を見る。
「今日も素敵でした。とても楽しかったです!」
「それならよかった」
その瞬間、外から面会時間終了のチャイムが鳴り響く。
「これ、よかったら使って」
「ノート、ですか?」
「うん。君が好きだって言ってた曲の楽譜を書いてみたんだ。
下には一応ドレミを入れたから、楽譜が読めなかったとしても大丈夫だと思う。いらなかったら捨てて」
「いらないなんてことはありません。ありがとうございます!
それでは奏多さん、また明日。屋上でお待ちしてますね」
「うん。また」
それだけ話して病室の外に出る。
…チュロスを食べたことがないのは分かるが、見たことがないということはやはり森川は長く入院しているのだろうか。
心にかすかな疑問が残ったまま病室を後にした。
【初めてのお菓子に、初めての来客…今日は楽しいことづくめでした。
目を開けても誰もいないと思っていたのに、奏多さんがいてくれたんです。すごく嬉しくて飛びあがりそうでした。
また遊びに来てもらえると嬉しいのですが、迷惑になっていなかったでしょうか?…また明日、屋上に行くのが楽しみです】
掃除を終え、ひと足先にその場を離れる。
今日は屋上へ行く前にどうしても足を運んでおきたい場所があった。
「すみません、森川彩さんのお見舞いに来た、穂村奏多という者なんですけど…」
「彼女から聞いています。こちらの許可証をなくさず、次回以降もこちらを見せてからお入りください」
「分かりました」
今日は朝から雨だし、屋上まで来て体を冷やせば風邪をひくかもしれない。
僕は慣れているが彼女は違う。
「お邪魔します」
扉を開けると、そこには物がほとんどない部屋が広がっていた。
女性の部屋に入ったことがなかったので一般的な場合がどうなのか分からないが、少なくとも森川がここで長く過ごしているであろうことは想像できる。
ベッドの上でぐっすり眠っている彼女を起こすのも申し訳なくて、そのまま部屋をぼんやり眺めた。
僕があげたピアノやプレイヤー、本が数冊にふたつのぬいぐるみ…本当に物が少ない。
何か飲み物を買ってこようと部屋を出ようとした瞬間、がたっと小さく音がした。
「え、奏多さん!?」
「ごめん。起こすつもりはなかったんだ。飲み物買ってくるから5分くらいかかると思う」
「分かりました」
病衣を纏った森川はいつものように着替えるつもりでいるのかもしれない…それなら今は出ておいた方がいいだろう。
お茶を買ったついでに持ってきたミニチュロスを確認する。
これなら食べられるとは思うが、大丈夫だろうか。
「…食べる?」
「いいんですか?」
「食べていいものならどうぞ。あと、こっちの飴は何日か置いておけるから。オレンジに林檎、薄荷も作ったよ」
「え、作ったって…全部奏多さんの手作りなんですか!?」
買ったものだと嘘を吐くわけにもいかず、ただ正直に答える。
「一応。料理するのは好きだから、できるだけやってみたんだ」
「嬉しいです!このお菓子は初めて見ましたし…」
「それはチュロス。本当はもっと長いんだけど、沢山食べるのは無理かもしれないと思ったんだ」
「そうだったんですか…そうだ!奏多さん、歌ってください」
「え、今?」
彼女のわくわくした瞳にノーを突きつけることはできない。
いつものように歌いながら、森川が楽しそうに笑う様子を見る。
「今日も素敵でした。とても楽しかったです!」
「それならよかった」
その瞬間、外から面会時間終了のチャイムが鳴り響く。
「これ、よかったら使って」
「ノート、ですか?」
「うん。君が好きだって言ってた曲の楽譜を書いてみたんだ。
下には一応ドレミを入れたから、楽譜が読めなかったとしても大丈夫だと思う。いらなかったら捨てて」
「いらないなんてことはありません。ありがとうございます!
それでは奏多さん、また明日。屋上でお待ちしてますね」
「うん。また」
それだけ話して病室の外に出る。
…チュロスを食べたことがないのは分かるが、見たことがないということはやはり森川は長く入院しているのだろうか。
心にかすかな疑問が残ったまま病室を後にした。
【初めてのお菓子に、初めての来客…今日は楽しいことづくめでした。
目を開けても誰もいないと思っていたのに、奏多さんがいてくれたんです。すごく嬉しくて飛びあがりそうでした。
また遊びに来てもらえると嬉しいのですが、迷惑になっていなかったでしょうか?…また明日、屋上に行くのが楽しみです】
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