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17日目
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「おはよう、彩ちゃん」
「おはようございます。西田さん、奏多さんの…穂村奏多さんのお見舞いの件、ありがとうございました」
「ゆっくり話せた?」
「はい!とても楽しかったです」
「それならよかった」
西田さんの笑顔は、いつ見ても天使だ。
なんだか心がほっこりして、少し残っていた体の怠さも消えてしまった。
今日は奏多さんが少し早く来られるはずだし、今のうちに準備しておこう。
「彩ちゃん」
「はい」
「今日なら晴れているから、外に出ても大丈夫だと思うよ」
「昨日はすみませんでした。まさかあんなに降ってくるなんて…」
「私の方こそ気づかなくてごめんね。それじゃあまた夕方来るね」
そう話す西田さんの背中に私はただ謝罪した。
見つかるはずない。私は中庭じゃなくて屋上にいたんだから。
ピアノを持ち上げた瞬間、なんだかいつもより重く感じて1度おろす。
「どうしたんでしょうね、私」
屋上まであがると、地面はまだ濡れていて少し寒い。
乾いている場所で鍵盤に指をおいて、少しずつ音を奏でていく。
「相変わらず上手だね」
「奏多さん!」
昨日やっと少しだけどんなことを経験しているのか知れたけど、なんだか今日の彼は少し疲れている気がする。
「折角の水曜日だったのに遅くなった…ごめん」
「いえ。私もさっき来たばかりなんです」
ふたりで話していると時間を忘れられる。
私にとっては今がすごく大切で、やっぱり一緒にいられるのは嬉しい。
「歌詞、ちょっとだけいじってみました。どうでしょうか?」
「どこまでも飛ぶ雲雀が求めているのは、きっと光なんだろうね」
「そうなんです!だけど、いい表現が見つからなくて…」
「……光さす未来へはばたく雲雀は希望の空へ、とか」
「かっこいいです!」
「ただ、そうなるとリズムを刻むのが難しくなるかもしれない。このあたりの歌詞をいじって…」
ピアノを弾きながら少しずつ紡がれる歌はとにかく綺麗で、とにかく聞き惚れてしまった。
いつか君を迎えに行く
さよならは言わないよ
「…こう?」
「私は好きです」
「分かった。それじゃあ一先ずここまで。何か聴きたい曲はある?」
「今日も歌ってくれるんですか?」
「僕でよければ」
「ありがとうございます。それじゃあ、このアーティストさんの曲がいいです。
この前奏多さんが聴いているのを見ましたから」
「見られてたんだ…」
奏多さんはそう呟いて、大空に向かってゆっくり歌いはじめた。
その声はやっぱり初めて聴いたときと変わらず…いや、初めて聴いたとき以上にどこまでも広がっている。
「それでは奏多さん、また明日」
「…また」
いつもならすぐに梯子を降りるけど、今日は少し疲れてしまっていたこともあってしばらく物陰に隠れて様子を窺う。
「空へ吸いこまれて…君が降り立つその日までより前に入れた方がいいか」
真剣な横顔に、ぐっと胸に熱いものがこみあげる。
それを堪えてゆっくり梯子を降りた。
【今日もまた少し歌が完成に近づいた。
こんなふうに誰かと創るのは初めてではあるが、森川となら楽しくやっていける気がする。
学校で呼び止められたのにうんざりして少し深く切ってしまったが、その痛みさえ気にならない。
少し体調が悪かったのかもしれない。…そう見えただけならいいのだが】
「おはようございます。西田さん、奏多さんの…穂村奏多さんのお見舞いの件、ありがとうございました」
「ゆっくり話せた?」
「はい!とても楽しかったです」
「それならよかった」
西田さんの笑顔は、いつ見ても天使だ。
なんだか心がほっこりして、少し残っていた体の怠さも消えてしまった。
今日は奏多さんが少し早く来られるはずだし、今のうちに準備しておこう。
「彩ちゃん」
「はい」
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「相変わらず上手だね」
「奏多さん!」
昨日やっと少しだけどんなことを経験しているのか知れたけど、なんだか今日の彼は少し疲れている気がする。
「折角の水曜日だったのに遅くなった…ごめん」
「いえ。私もさっき来たばかりなんです」
ふたりで話していると時間を忘れられる。
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「歌詞、ちょっとだけいじってみました。どうでしょうか?」
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「そうなんです!だけど、いい表現が見つからなくて…」
「……光さす未来へはばたく雲雀は希望の空へ、とか」
「かっこいいです!」
「ただ、そうなるとリズムを刻むのが難しくなるかもしれない。このあたりの歌詞をいじって…」
ピアノを弾きながら少しずつ紡がれる歌はとにかく綺麗で、とにかく聞き惚れてしまった。
いつか君を迎えに行く
さよならは言わないよ
「…こう?」
「私は好きです」
「分かった。それじゃあ一先ずここまで。何か聴きたい曲はある?」
「今日も歌ってくれるんですか?」
「僕でよければ」
「ありがとうございます。それじゃあ、このアーティストさんの曲がいいです。
この前奏多さんが聴いているのを見ましたから」
「見られてたんだ…」
奏多さんはそう呟いて、大空に向かってゆっくり歌いはじめた。
その声はやっぱり初めて聴いたときと変わらず…いや、初めて聴いたとき以上にどこまでも広がっている。
「それでは奏多さん、また明日」
「…また」
いつもならすぐに梯子を降りるけど、今日は少し疲れてしまっていたこともあってしばらく物陰に隠れて様子を窺う。
「空へ吸いこまれて…君が降り立つその日までより前に入れた方がいいか」
真剣な横顔に、ぐっと胸に熱いものがこみあげる。
それを堪えてゆっくり梯子を降りた。
【今日もまた少し歌が完成に近づいた。
こんなふうに誰かと創るのは初めてではあるが、森川となら楽しくやっていける気がする。
学校で呼び止められたのにうんざりして少し深く切ってしまったが、その痛みさえ気にならない。
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