君と30日のまた明日

黒蝶

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26日目

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「穂村」
急いでいるときに限って先生に止められる。
「すみません、今日も急ぐので…」
「病院か?」
「はい」
「それなら、これを森川に届けておいてもらえないか?頼まれたんだけど、どうしても会議で抜けられそうにないんだ。
それに、俺は直接渡しに行くのが難しい。許可証を持ってないから。…急ぎだと困るから、頼めないか?」
昨日は気づかないふりをしたが、向こうには僕のことが知られているらしい。
呼び止められて嫌な話をしないといけなくなるよりずっといい…そう自分に言い聞かせ、先生から荷物を受け取る。
「ありがとう」
この人は森川を真っ直ぐ見て話をしようとしている。
それなら僕が口を挟むことではない。
「失礼します」
そのまま走って病院へ直行する。
許可証を見せて扉をノックすると、今日は中から返事がかえってきた。
「ごめん。遅くなった」
「いえ。私もさっき着替えたばかりですから」
「お弁当持ってきたけど、食べられそう?」
「また作ってきてくれたんですか!?」
森川の嬉しそうな声にだんだん恥ずかしくなってくる。
「すごく嬉しいです」
「……そう」
そういえば、今日の僕にはもうひとつやらなければならないことがある。
「これ、先生から預かってきた」
「室星先生からですか?」
「君に頼まれたものだって…どうしても抜けられない会議があるからって言ってたよ」
「ありがとうございます。とても助かりました」
病室の床にレジャーシートを敷き、そこにお弁当を広げる。
「こうすれば、窓から気が見えるからいいかなって…どうかな?」
「考えたこともありませんでした。これでお出かけ気分を味わえます」
彼女は本当に嬉しそうに笑う。
こんな日が長く続いてほしいが、そういうわけにもいかないのだろう…そう思うと悲しくなる。
「奏多さん?」
「ごめん。食べようか」
「はい!」
箸の使い方が綺麗でつい見惚れてしまう。
彼女の方もこちらを見てきたので、少し気まずくなった。
「私、変な顔でしたか?」
「ごめん。食べ方が綺麗だなって思っただけなんだ。森川の方こそどうしたの?」
「制服で食べているのが不思議な感じで…嬉しいんです。だからお礼を言おうと思っていました。
それから、奏多さんが座っている場所には座布団を敷かなくていいのか気になってみていたんです」
彼女の表情は和やかだ。見ている僕までほわほわするような気がする。
「僕はこのままでいい。それから…またこんなふうにご飯を食べたい」
本心だった。気遣ったとかそういうわけではなく、単純に楽しいと感じたのだ。
「私でよければ、またお願いします」
「…明日も作ってくる」
そろそろ片づけないと終了時間に間に合わない。
だが、森川が立ちあがる気配がなかった。
「楽しみにしていますね。…また明日、今度は屋上で待っています」
「いなかったらここに来る。…約束」
僕の歌が誰かに届くことはないと思っていたのに、毎日聴いてくれる友人に心が救われた。
すべて片づけ終えた直後、無慈悲な鐘が鳴り響く。
森川の手にミサンガを巻くと、何故か嬉しそうにしていた。

【今日は奏多さんが色々なものを用意してくれました。制服にお弁当、ミサンガ…嬉しかったです。
先生に頼んでおいたものも届きました。また明日、奏多さんと話がしたいです。
それから、今日も途中まで歌ってもらえました。あの歌のタイトルを知りたいです】
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