30 / 35
29日目
しおりを挟む
「彩ちゃん、おはよう。ちょっといいかな?」
「西田さん?どうかしたんですか?」
「実は今日、穂村さんが泊まりに来てくれるの」
まさかそんなことがあるなんて思っていなかった。
ただ、奏多さんが来てくれるのは嬉しい。
「もう誰も来ないと思っていたので、素直に嬉しいです」
「私も嬉しくなっちゃった」
西田さんはお茶目に笑ってるけど、何か考えているように見える。
ただ、その核心をつく勇気はなかった。
「おはよう」
「奏多さん?学校はどうしたんですか?」
私のせいでお休みしている、なんてことになっているなら申し訳ない。
奏多さんは私の近くに座って、パソコンの用意をはじめた。
「今日はここで授業を受ける。森川とふたりで受けるなら欠席扱いにはしないって先生が言ってたんだ」
「室星先生ですか?」
奏多さんが頷くのと同時に画面に先生が現れる。
『ふたりとも揃ってるな』
「…おはようございます」
「それじゃあ彩ちゃん、何かあったら呼んでね」
西田さんはそれだけ言って出ていってしまった。
こんなふうに誰かと授業を受けるのはいつぶりだろう。
『だからこの公式がこっち側に適応されて、あとは答えだけだ』
「できました」
「私もできました」
そんなふうにやっているうち、あっという間に1時間が終わる。
「ありがとうございました」
『ふたりともお疲れさん』
「…ありがとうございました」
それから少し休んで、奏多さんが音楽の授業をしてくれた。
もう屋上の景色を見ることはできないけど、ふたりでいられるのが不思議だ。
「あの…」
「どうかした?」
「奏多さん、ご家族に怒られないんですか?」
「…僕の家族は祖父だけだったんだ。けど、今はもういない。
両親は僕を置いていなくなった。小さかったから顔も分からない」
訊いてはいけないことだった。
それを話してもらえたんだから、私の事情も話しておこう。
「私の家族…両親は、私の顔を覚えていないと思います。下に妹ができたらしいんです。
結局1度も会えませんでしたが、その子は愛されているといいなって思ってます」
私が病気だから愛されないというなら、その子はきっと体が頑丈だったんだろう。
「…ごめん。話すの辛かったでしょ」
「いえ。私より環境が複雑な人がいるとは思っていませんでした。私の方こそすみません」
「誰にも言ったことがなかったけど、森川には隠し事をしたくなかったんだ。
だから、今話したことを後悔してない」
彼の言葉は温かい。
どこまでも心に響いてぽかぽかする。
「奏多さん」
「どうしたの?」
「また明日、歌ってもらえませんか?」
「僕でよければ。曲は君が決めて」
「ありがとうございます」
検査が終わって部屋に戻ってくると、奏多さんの分の布団が敷かれていた。
「それでは奏多さん、また明日」
「…うん。また明日」
目を閉じるとすぐ眠気に襲われる。
今は明日がくるのが少し怖い。
指先に何か温かいものがあたって少し安心した。
【今日は森川と1日を過ごした。
午前中は元気そうだったが、夕方になると疲れているのが分かった。夜になると、明日のことを考えて眠れないようだ。
取り敢えず手を握っているとうっすら涙を流している。口に出さないだけでやはり不安なのだ。
明日は森川にどんな言葉を伝えよう。…もう時間がないというなら、彼女が望むことを叶えたい】
「西田さん?どうかしたんですか?」
「実は今日、穂村さんが泊まりに来てくれるの」
まさかそんなことがあるなんて思っていなかった。
ただ、奏多さんが来てくれるのは嬉しい。
「もう誰も来ないと思っていたので、素直に嬉しいです」
「私も嬉しくなっちゃった」
西田さんはお茶目に笑ってるけど、何か考えているように見える。
ただ、その核心をつく勇気はなかった。
「おはよう」
「奏多さん?学校はどうしたんですか?」
私のせいでお休みしている、なんてことになっているなら申し訳ない。
奏多さんは私の近くに座って、パソコンの用意をはじめた。
「今日はここで授業を受ける。森川とふたりで受けるなら欠席扱いにはしないって先生が言ってたんだ」
「室星先生ですか?」
奏多さんが頷くのと同時に画面に先生が現れる。
『ふたりとも揃ってるな』
「…おはようございます」
「それじゃあ彩ちゃん、何かあったら呼んでね」
西田さんはそれだけ言って出ていってしまった。
こんなふうに誰かと授業を受けるのはいつぶりだろう。
『だからこの公式がこっち側に適応されて、あとは答えだけだ』
「できました」
「私もできました」
そんなふうにやっているうち、あっという間に1時間が終わる。
「ありがとうございました」
『ふたりともお疲れさん』
「…ありがとうございました」
それから少し休んで、奏多さんが音楽の授業をしてくれた。
もう屋上の景色を見ることはできないけど、ふたりでいられるのが不思議だ。
「あの…」
「どうかした?」
「奏多さん、ご家族に怒られないんですか?」
「…僕の家族は祖父だけだったんだ。けど、今はもういない。
両親は僕を置いていなくなった。小さかったから顔も分からない」
訊いてはいけないことだった。
それを話してもらえたんだから、私の事情も話しておこう。
「私の家族…両親は、私の顔を覚えていないと思います。下に妹ができたらしいんです。
結局1度も会えませんでしたが、その子は愛されているといいなって思ってます」
私が病気だから愛されないというなら、その子はきっと体が頑丈だったんだろう。
「…ごめん。話すの辛かったでしょ」
「いえ。私より環境が複雑な人がいるとは思っていませんでした。私の方こそすみません」
「誰にも言ったことがなかったけど、森川には隠し事をしたくなかったんだ。
だから、今話したことを後悔してない」
彼の言葉は温かい。
どこまでも心に響いてぽかぽかする。
「奏多さん」
「どうしたの?」
「また明日、歌ってもらえませんか?」
「僕でよければ。曲は君が決めて」
「ありがとうございます」
検査が終わって部屋に戻ってくると、奏多さんの分の布団が敷かれていた。
「それでは奏多さん、また明日」
「…うん。また明日」
目を閉じるとすぐ眠気に襲われる。
今は明日がくるのが少し怖い。
指先に何か温かいものがあたって少し安心した。
【今日は森川と1日を過ごした。
午前中は元気そうだったが、夕方になると疲れているのが分かった。夜になると、明日のことを考えて眠れないようだ。
取り敢えず手を握っているとうっすら涙を流している。口に出さないだけでやはり不安なのだ。
明日は森川にどんな言葉を伝えよう。…もう時間がないというなら、彼女が望むことを叶えたい】
0
あなたにおすすめの小説
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる