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30日目
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「おはようございます」
「おはよう」
ふたりで話をしていると、看護師さんが朝食を持ってきてくれた。
「病院食ですが、よろしければどうぞ」
「ありがとうございます。すみません、僕の分までわざわざ用意していただいて…」
「いえ。ただ余分があっただけですから。彩ちゃん、朝のチェック済ませるね」
「西田さん、色々とありがとうございます」
血圧等を調べる間は部屋にいるわけにもいかず、一先ず廊下に出て待つことにする。
今日もふたりで授業を受けて、一緒に演奏したりお菓子を食べたりして過ごす…そんな未来を考えていた。
「彩ちゃん!?」
室内から声が響き、電子音が鳴り続ける。
それがどういうことなのか、なんとなく理解した。
ただ、どうしても認めたくない。
だって、さっきまであんなに元気そうにしていたのに…嘘だと思いたかった。
「穂村さん…」
「森川は大丈夫なんですよね?」
「もしかすると、彼女はもう越えられないかもしれません。…どうか側にいてあげてください」
西田さんと呼ばれていたその人は、それだけ話してどこかへ行ってしまった。
「…森川」
「奏多さん…」
森川は息苦しそうにしているが、その表情はとても穏やかなものだった。
「日記…」
「え?」
「私の日記、受け取ってもらえませんか?」
それが彼女の望みなら、僕は喜んで叶えよう。
「勿論」
「私のお部屋の荷物も、受け取ってもらえますか?」
「森川が望むなら、小物くらいは引き取れる」
「ありがとうございます」
何をどうすればいいのか分からなくて狼狽えそうになるが、今はただ側にいたい。
「奏多さん」
「どうしたの?」
「名前…呼んでもらえませんか?本当は、曲が全部完成してからお願いしようって…」
「彩」
今まで照れくさくてできなかったのに、今更すんなりできるようになってしまった。
「遅くなってごめん」
「いえ…嬉しいです」
彩は少し苦しげに息を漏らす。
「奏多さんの、歌が聴きたいです」
どの曲にするかなんて考えていなかった。
彼女とふたりで過ごす明日が続くと信じていたから。
ただ、頭に浮かんだのは1曲だけだ。
「……♪」
世界にたったひとつ それは君だけの翼
目に見えないだけで ちゃんと背中についてるんだ
電子音が旋律に添えられ、歌いきれずにただの言葉になる。
「…それがあれば、どこまでだって翔べるんだよ」
「本当ですか?」
「僕は嘘を吐いたりしない。…彩」
「なんでしょう?」
手を繋ぎ、できるだけ笑顔を作って話しかけた。
「ありがとう。君のおかげで生きていけそうだ」
彼女はただ微笑み、そっと瞼をおろす。
電子音の中聞こえたのは、自分の嗚咽だけだった。
「穂村さん、少しいいですか?」
「…はい」
寝ていると思っていたのに、彩は僕の手を離さずに少しだけ目を開ける。
「奏多、さん」
「どうしたの?」
「また明日、会えますか?」
「…うん。会えるよ」
「それでは…奏多さん、また明日」
彼女の日記と僕が渡したのを大切に持ってくれていたマスコット…そして、あげると渡したピアノを手に持つ。
それだけあれば、どんな残酷な事実を突きつけられても大丈夫な気がした。
「おはよう」
ふたりで話をしていると、看護師さんが朝食を持ってきてくれた。
「病院食ですが、よろしければどうぞ」
「ありがとうございます。すみません、僕の分までわざわざ用意していただいて…」
「いえ。ただ余分があっただけですから。彩ちゃん、朝のチェック済ませるね」
「西田さん、色々とありがとうございます」
血圧等を調べる間は部屋にいるわけにもいかず、一先ず廊下に出て待つことにする。
今日もふたりで授業を受けて、一緒に演奏したりお菓子を食べたりして過ごす…そんな未来を考えていた。
「彩ちゃん!?」
室内から声が響き、電子音が鳴り続ける。
それがどういうことなのか、なんとなく理解した。
ただ、どうしても認めたくない。
だって、さっきまであんなに元気そうにしていたのに…嘘だと思いたかった。
「穂村さん…」
「森川は大丈夫なんですよね?」
「もしかすると、彼女はもう越えられないかもしれません。…どうか側にいてあげてください」
西田さんと呼ばれていたその人は、それだけ話してどこかへ行ってしまった。
「…森川」
「奏多さん…」
森川は息苦しそうにしているが、その表情はとても穏やかなものだった。
「日記…」
「え?」
「私の日記、受け取ってもらえませんか?」
それが彼女の望みなら、僕は喜んで叶えよう。
「勿論」
「私のお部屋の荷物も、受け取ってもらえますか?」
「森川が望むなら、小物くらいは引き取れる」
「ありがとうございます」
何をどうすればいいのか分からなくて狼狽えそうになるが、今はただ側にいたい。
「奏多さん」
「どうしたの?」
「名前…呼んでもらえませんか?本当は、曲が全部完成してからお願いしようって…」
「彩」
今まで照れくさくてできなかったのに、今更すんなりできるようになってしまった。
「遅くなってごめん」
「いえ…嬉しいです」
彩は少し苦しげに息を漏らす。
「奏多さんの、歌が聴きたいです」
どの曲にするかなんて考えていなかった。
彼女とふたりで過ごす明日が続くと信じていたから。
ただ、頭に浮かんだのは1曲だけだ。
「……♪」
世界にたったひとつ それは君だけの翼
目に見えないだけで ちゃんと背中についてるんだ
電子音が旋律に添えられ、歌いきれずにただの言葉になる。
「…それがあれば、どこまでだって翔べるんだよ」
「本当ですか?」
「僕は嘘を吐いたりしない。…彩」
「なんでしょう?」
手を繋ぎ、できるだけ笑顔を作って話しかけた。
「ありがとう。君のおかげで生きていけそうだ」
彼女はただ微笑み、そっと瞼をおろす。
電子音の中聞こえたのは、自分の嗚咽だけだった。
「穂村さん、少しいいですか?」
「…はい」
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「奏多、さん」
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「また明日、会えますか?」
「…うん。会えるよ」
「それでは…奏多さん、また明日」
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それだけあれば、どんな残酷な事実を突きつけられても大丈夫な気がした。
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