君と30日のまた明日

黒蝶

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31日目

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【最後の最後、私は寂しくなかったんです。大丈夫、私は死にませんから。
…だけど、明日が来るのかなんて分からないから書いておこうと思います。
奏多さん、本当にありがとうございました。感謝してもし足りないんです】
…そこまで読んで一旦閉じる。
気持ちが整理しきれていない。
ただひとつだけ分かるのは、森川彩とふたりで過ごせる明日が来ないことだけだ。
「穂村」
「…先生」
真っ黒な服に身を包んだ室星先生が現れ、ただ僕に頭を下げた。
「森川の側にいてくれてありがとう」
「…僕にはこれくらいしかできなかったので」
何もできなかった。
他の人たちならもっと上手くやれていたかもしれないが、僕にはそれ以外思いつかなかったのだ。
あの後森川は静かに息を引き取った。
彼女は遺言書を用意していたらしく、自分に関わるものの一部を僕に渡すよう書いておいてくれたらしい。
そんなものを作っていたことさえ知らなかった。
「穂村さん」
「西田さん…」
「彩ちゃんを笑顔にしてくれてありがとう。私たちだけではきっとできませんでした」
「…救われたのは、僕の方です」
もうどうでもいいと思っていた。
家族にも学校にも馴染めず、どこにも居場所なんてないと絶望していたのが嘘みたいだ。
曲を創るのも、森川と…彩と一緒に話すのも楽しかった。
「室星先生」
「どうした?」
「…通信制のパンフレット、また貰いに行っていいですか?」
「準備しておく。編入試験受けるなら俺が授業する。大体の教科の免許は持ってるから、何かあったら声をかけてくれ」
僕はこの人を疑っていたのに、それでも優しくしてくれる。
…だったら、ちゃんと信じてみよう。
「ありがとうございます」
「おまえ、初めて笑ったな」
少し離れた火葬場から煙が舞っている。
それは彩が空へ向かっている証拠だった。
遠くへ広がっていくのを見つめながら、ただ彼女がどこまでも羽ばたいていけたことを願う。
「…彩」
棺に僕が渡したマスコットや、彼女が大切にしていたものを入れた。
もっと名前を呼べばよかったと後悔してももう遅い。
「穂村、もし俺にできることがあれば…」
「今のところは大丈夫です。もう少しゆっくり考えます」
少し離れた場所から彼女の家族を見た。
あの笑っていたのが妹さんだとすれば、大切に育てられているらしい。
その事実に安堵した。
「…ちゃんと読まないと」
日記の最後の頁の続きに目を通す。
【もうずっと独りで終わるんだと思っていました。
誰もいない、真っ白な天井だけが広がる世界…そのなかでたったひとつの光を見つけられました。
これからも歌い続けてください。奏多さんの歌は、沢山の人の世界を色づけることができますから】
最後まで人のことばかりで涙が止まらない。
辛いとか怖いとか、そういう言葉が全く書かれていなかった。
お礼を言うのは僕の方だ。
こんなにも世界を彩づけ去っていくなんて、彩は魔法使いだと思う。
これからどうなるかなんて分からない。
ただ、いつか彼女に胸をはれるようになると信じて今は光を目指してみよう。
それが幻想だとしても、今はまだ諦めずにもがき続ける。
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