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××日目
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それから季節が巡り、僕は制服に身を包んでいる。
…ただし、立っているのは水曜日の夜の校舎前だ。
「穂村」
「おはようございます」
「来週は日曜日しかスクーリング日がないが、来られそうか?」
「はい。なんとか休みをもらえるようにお願いしました」
清掃員の仕事も続けながら、彩が通うはずだった通信制に編入した。
室星先生に相談すると、必要なものや試験について説明されすんなりいったように思う。
「全日制の生徒と会うのは辛いか?」
「まあ…それなりにダメージはあります」
先生は、教師の仕事だからとあのクラスで会議を開くところまで持っていってくれたらしい。
階段から突き飛ばした犯人も、持ち物を壊した犯人も捕まえてくれたそうだ。
そんなことがおこっても、僕にはもうあまり興味がない。
先生についていくと、その先に女子生徒がいる。
「折原、今少しいいか?」
「バイトまでまだ時間があるし…ああ、その子が穂村奏多か」
「あ、あの」
「どうした?」
「ありがとうございました。僕のことも、彩のことも」
彩の日記に折原詩乃という人物の名前が何度か登場していた。
だが、面会に制限がついたことにより直接会えていなかったらしい。
「森川とは画面越しで話すことがほとんどだったけど、優しい子だよな」
その言葉にただ首を縦にふる。
だったと言い切らないのがこの人の優しさだと思う。
「…それで、監査部に入ってくれるって話だったな」
「人に助けを求めるのって、簡単なことじゃないので…僕でも誰かの助けになれますか?」
たまたま見つけてくれた室星先生がいい人だったこともあって、今は死ぬことを考えなくなった。
だが、そうなるとは限らない。
だったら、相手を問い詰めてくれたであろう監査部で誰かの世界を彩づけたい…今度は僕の番だ。
「ああ。苦しい思いをした人ほど悩みを抱えた相手の気持ちに寄り添える。
監査部に入ってほしいと思った人材は、学園生に寄り添える心を持ってる人物だ」
「流石だな、監査部長」
「担当顧問がそれを言うのか…。まあ、とにかく興味があればきてほしい。
昼間制だろうが定時制だろうが通信制だろうが、誰かの力になりたいって気持ちがあるなら歓迎する」
誰かに来てほしいなんて言われる日がくるとは思っていなかった。
高圧的な人なら嫌だと思っていたけど、この人にならついていけそうだ。
「ありがとうございます。…よろしくお願いします」
こうして進んでいこうと決められたのも、前に向いて1歩踏み出す勇気が持てたのも、全部彩のおかげだ。
彼女が生きたかったこの世界で、気が済むまで僕の色に彩づけていく。
「待て。これ落としたぞ」
「すみません」
「そのノート、大事なものなんだな」
「…はい」
彩からもらったノートと音楽関連の職業や進学について書かれた本は僕の希望だ。
「もし監査部に所属したいって考えてくれてるなら、先生から書類をもらってサインしてくれ。
私はいつも放課後監査室にいるから、何かあれば声をかけてほしい。時々日曜日も顔を出してるからさ」
「ありがとうございます」
折原さんの表情はとても柔らかい。
「折原、報告書は?」
「こっちならできてる。…穂村、またな」
「お疲れ様です」
一礼して校舎に入ると、先生が1枚のメモを渡してくれた。
「時間があるときでいい。森川に会いに行ってこい。きっと喜ぶだろうから」
「ありがとうございます」
「なあ、ずっと訊きたかったんだけど…いつもどんな曲聴いてるんだ?」
今まで誰かに訊かれたことはなかったし、訊かれたとしても恐らく別の答えを伝えていただろう。
だが、今は正直に答えられる。
「…僕の曲です」
【彩
これから新しい環境に慣れていくのは大変かもしれないけど、頑張ってみようと思う。相変わらずヘッドホンで音楽の世界に浸ることが多いけど、前よりは前向きになれた気がする。
ところで、曲が完成したよ。あんまり自信はないけど、君はあの日みたいに聴いてくれるのかな?
最後まで言えなかったけど、あの曲は…言わなくても分かるか。
新しい曲ができたらまたここまで会いに来る。また今度も歌を聴かせる。
君が1番好きだったであろう、あの歌を。
それじゃあ、また明日】
…ただし、立っているのは水曜日の夜の校舎前だ。
「穂村」
「おはようございます」
「来週は日曜日しかスクーリング日がないが、来られそうか?」
「はい。なんとか休みをもらえるようにお願いしました」
清掃員の仕事も続けながら、彩が通うはずだった通信制に編入した。
室星先生に相談すると、必要なものや試験について説明されすんなりいったように思う。
「全日制の生徒と会うのは辛いか?」
「まあ…それなりにダメージはあります」
先生は、教師の仕事だからとあのクラスで会議を開くところまで持っていってくれたらしい。
階段から突き飛ばした犯人も、持ち物を壊した犯人も捕まえてくれたそうだ。
そんなことがおこっても、僕にはもうあまり興味がない。
先生についていくと、その先に女子生徒がいる。
「折原、今少しいいか?」
「バイトまでまだ時間があるし…ああ、その子が穂村奏多か」
「あ、あの」
「どうした?」
「ありがとうございました。僕のことも、彩のことも」
彩の日記に折原詩乃という人物の名前が何度か登場していた。
だが、面会に制限がついたことにより直接会えていなかったらしい。
「森川とは画面越しで話すことがほとんどだったけど、優しい子だよな」
その言葉にただ首を縦にふる。
だったと言い切らないのがこの人の優しさだと思う。
「…それで、監査部に入ってくれるって話だったな」
「人に助けを求めるのって、簡単なことじゃないので…僕でも誰かの助けになれますか?」
たまたま見つけてくれた室星先生がいい人だったこともあって、今は死ぬことを考えなくなった。
だが、そうなるとは限らない。
だったら、相手を問い詰めてくれたであろう監査部で誰かの世界を彩づけたい…今度は僕の番だ。
「ああ。苦しい思いをした人ほど悩みを抱えた相手の気持ちに寄り添える。
監査部に入ってほしいと思った人材は、学園生に寄り添える心を持ってる人物だ」
「流石だな、監査部長」
「担当顧問がそれを言うのか…。まあ、とにかく興味があればきてほしい。
昼間制だろうが定時制だろうが通信制だろうが、誰かの力になりたいって気持ちがあるなら歓迎する」
誰かに来てほしいなんて言われる日がくるとは思っていなかった。
高圧的な人なら嫌だと思っていたけど、この人にならついていけそうだ。
「ありがとうございます。…よろしくお願いします」
こうして進んでいこうと決められたのも、前に向いて1歩踏み出す勇気が持てたのも、全部彩のおかげだ。
彼女が生きたかったこの世界で、気が済むまで僕の色に彩づけていく。
「待て。これ落としたぞ」
「すみません」
「そのノート、大事なものなんだな」
「…はい」
彩からもらったノートと音楽関連の職業や進学について書かれた本は僕の希望だ。
「もし監査部に所属したいって考えてくれてるなら、先生から書類をもらってサインしてくれ。
私はいつも放課後監査室にいるから、何かあれば声をかけてほしい。時々日曜日も顔を出してるからさ」
「ありがとうございます」
折原さんの表情はとても柔らかい。
「折原、報告書は?」
「こっちならできてる。…穂村、またな」
「お疲れ様です」
一礼して校舎に入ると、先生が1枚のメモを渡してくれた。
「時間があるときでいい。森川に会いに行ってこい。きっと喜ぶだろうから」
「ありがとうございます」
「なあ、ずっと訊きたかったんだけど…いつもどんな曲聴いてるんだ?」
今まで誰かに訊かれたことはなかったし、訊かれたとしても恐らく別の答えを伝えていただろう。
だが、今は正直に答えられる。
「…僕の曲です」
【彩
これから新しい環境に慣れていくのは大変かもしれないけど、頑張ってみようと思う。相変わらずヘッドホンで音楽の世界に浸ることが多いけど、前よりは前向きになれた気がする。
ところで、曲が完成したよ。あんまり自信はないけど、君はあの日みたいに聴いてくれるのかな?
最後まで言えなかったけど、あの曲は…言わなくても分かるか。
新しい曲ができたらまたここまで会いに来る。また今度も歌を聴かせる。
君が1番好きだったであろう、あの歌を。
それじゃあ、また明日】
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