裏世界の蕀姫

黒蝶

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夏彦ルート

第9話

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「月見ちゃん」
「あの、さっきの子は…」
「大丈夫、渡したらすごく喜んでたよ。魔法みたいだって…俺もそう思った」
夏彦にそんなふうに言ってもらえるとは思っていなかったので、どんな表情をするのが正解か迷ってしまう。
「ありがとう。あの子の笑顔を作ったのは月見ちゃんだよ」
役立たずの私が、誰かの笑顔を作る…?
そんなはずはないと言いたかったものの、言葉が喉につまって上手く出てこない。
「あれを全部手縫いで直すとなると絶対難しいのに、本当に職人さんみたいだった」
夏彦の言葉は、いつも私を包みこんでくれる。
きっと彼にはそんなつもりはないのだろうけれど、私にとってはとてもありがたいことだ。
…本当に自分に向けられたものなのか、疑ってしまいそうになるほどに。
「あれだけ裁縫上手なら、ひとつお願いしてもいいかな?」
「わ、私にできることなら」
「それじゃあ、紫陽花をモチーフにしたアクセサリーを作ってほしいんだ」
アクセサリーというものに縁遠い私が、それを作る…全く自信がない。
そもそも、一体どんな種類のものがあるのだろうか。
「たとえばどんなものがありますか?」
「そうだな…たとえばこういうものだったり、最近はこういうコサージュを買っていってくれるお客さんが多いかな」
見せてもらったものはどれも綺麗で、とても私に作れそうなものではない。
それでも、任せてもらえるのならやってみてもいいだろうか。
「月見ちゃんが嫌だと思うなら引き受けなくてもいいんだ。
ただ、君にしか作れないものができるんじゃないかって俺が勝手に思ってるだけだし…」
「……やってみても、いいですか?」
「勿論。ありがとう、それじゃあお願いするね」
「その代わり、ここで作業してもいいですか?」
沢山の人がいる場所より、何もない部屋の方がいい。
少しだけ苦いことを思い出すけれど、誰かがいる方がきっと気になるし迷惑をかけてしまうだろう。
「分かった、それじゃあ必要なものがあったらなんでも言ってね。布と糸は、ここにあるものならどれを使ってもらってもいいから」
「ありがとうございます」
見たことがないような輝きを放つ大量の材料に少し緊張しながら、とにかく選ぶところからだと恐る恐る手を伸ばす。
「…どれも綺麗」
思わず言葉に出てしまうほどの美しさで、どんな色にするかなかなか決められない。
青系がいいだろうか。それとももっと明るい色…?


──紫陽花には色々な色がある。
夏彦はそう話していた。
つまり、どんな色があってもいいのなら…私は針を手に取る。
正解なんて分からない。それなら、私なりの答えを出してみるしかないのだ。
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