裏世界の蕀姫

黒蝶

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春人ルート

第36話

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読んでいいものなのか分からない。
ただ、中身を見れば私が知らない春人を知ることができるだろうか。
…そう考えると、自然と頁をめくっていた。
《あの人は自殺なんかしない。
任務により命を狙われていたことも熟知していた。護れなかったのは俺の責任だ。あの人に側にいてほしかったのに、どうしてあいつらは追ってきたのか…》
文字はそこで途切れていて、最後に一言だけ書かれていた言葉が心に突き刺さった。
《俺がもっと強ければ…俺のせいだ》
【あの人】というのは、春人にとってとても大切な人だったというのがよく分かる。
「寝てるのかと思ったら、見られちゃったのか」
「……!春人、えっと、その、」
「別に気にしなくていい。書き損じの報告書だし、もうすぐ捜査は終わるから」
その目には時々見る翳りが入っていて、何かしら思っていることがあることを理解する。
「春人を助けてくれた人というのは、【伝説の便利屋】さんなんですか?」
「君は感受性が強い。だから知らない方がいい」
「でも、」
「諦めなくちゃいけないことだってあるんだ」
彼はそう言い放っていたけれど、本心から言っている訳じゃない。
私に何ができるかなんて分からないけれど、護ってもらってばかりでいるのは嫌だ。
「私では、何もできないと思います。ただ、あなたのことを知りたいんです」
「…俺の話なんか聞いても全然楽しくないよ」
「楽しいかどうかじゃなくて、春人についてならどんなことでもいいんです」
怒らせてしまうかもしれない、そう思いながらも言葉を止められなかった。
真っ直ぐ彼を見つめると、小さく息を漏らす。
「それじゃあひとつだけ。…俺のことをハルって呼ぶのは、夏彦の他にもうひとりだけいた。
…それが俺を助けてくれた人だよ」
春人はそれだけ話すと、別の部屋に行ってしまった。
その場所は入らないでほしいと言われている場所で、どんなものがあるのかさえ分からない。
「…やっぱり、怒らせてしまったでしょうか」
ラビとチェリーに話しかけながら、淹れておいたカモミールティーを片づける。
それはすっかりぬるくなってしまっていて、揺れる水面に歪んだ顔だけがうつっていた。
ふたりを連れて部屋に戻ったものの、どうしても気になってしまう。
春人が何を抱えているのか、ひとりでどんなことを考えているのか…さっきの記録の内容の意味についても知らない。
蕀さんたちにお願いすれば今彼がどうしているのかくらいは分かるだろう。
ただ、私はそうしたくなかった。
それにしても、春人が後ろから気配を消して近づいてくるのは癖なのだろうか。
…やっぱり、危ない仕事をしているからなのかもしれない。
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