裏世界の蕀姫

黒蝶

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夏彦ルート

第70話

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次に目を開けたとき、私はまだ外にいた。
「…秋久さん、目が覚めたよ」
「そうか」
耳元でにゃあにゃあと声がするけれど、全身が痛くて動けそうにない。
「しばらく歩くときは杖を使って。ちょっと強めの薬を使ったから、今はまだ体が怠いと思うけど我慢して」
なんとか頷いてみせたけれど、夏彦の姿がどこにもない。
「夏彦さんならあっち。今は叱られてるから…」
いつもより低い声で言葉を紡ぎながら、秋久さんが夏彦の胸倉を掴んでいるのが目に入る。
「ひとりで突っ走るな、何かあったら言えって説明したよな?」
「…ごめん」
「また誰かに死なれたら、俺は耐えられる自信がない。誰かひとりでも欠ければ、それはもう【カルテット】とは呼べないんだ。
おまえはもっと、自分の命を大事にしろ」
「アッキー、優しい…」
その声はとても息苦しそうなもので、聞いているだけでどれだけ怪我が酷いものなのかすぐ理解した。
「でも俺は、無関係な月見ちゃんを…」
「後で俺も一緒に謝ってやる。土下座でもなんでも、お嬢ちゃんが納得いくまでな」
全然怒ってなんかいないのに、どうしてそんな話をしているんだろう。
「…取り敢えずふたりとも重傷だから運ぶ。申し訳ないけど、春人さんたちにも手伝ってもらっていい?」
「僕でよければ任せてください。ただ、女性の扱いには慣れていないので頑丈そうな方を運びます」
「じゃあ、俺も夏彦を…いや、お嬢ちゃんの方を手伝う」
体がゆっくり持ち上がるのを感じたけれど、視線を動かすのでせいいっぱいだ。
「僕、そんなに軟弱じゃないよ」
「今はあいつらをふたりにしてやりたいんだ。…悪いな」
「まあ、それなら──」
そういえば、意識がなくなる前の水は何だったんだろう。
雨が降っていたなら背中まで濡れていないといけないのに、今の私は全然濡れていない。
…あれは何だったんだろう。
「お嬢ちゃん、──か?」
「駄目だ、……だと思う。早くしないと‥‥‥に…」
また音が途切れて聞こえる。
耳がおかしくなったのか、私が見ている世界がおかしくなったのか…これが夢だとしても、もう区別がつかない。
足にじわりと痛みを感じて、今の状態に少しだけ納得してしまった。
「もう少しだけ耐えて。聞こえてるか……ないけど」
刀がどれだけ深く切れるのかなんて、今まで考えたことがなかった。
人は強い痛みを感じると感覚がなくなることがあると何かの本で読んだことがあるけれど、今の状態がそれなのだろうか。
にゃあと声がしたような気がしたけれど、どんどん眠くなってきてそのまま目を閉じる。
…夏彦が無事であることを願いながら。
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